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机の上には真っ白な皿には飴色に染まった炒め物、ボウルのような深皿には半分減ったサラダ、平皿には人数分の大きなバターロール、そして取り分け皿には既に鍋から出された、何やら茶色い調味料が染み渡った煮込みが入っている。
そうしてまた、ルームハリーヌは腹を空かせた獣達が発する熱気に包まれていた。

「よーし……食うぞおー!」
「おーっ!」
「てめえはもう食っただろうが!!!」
「あだあっ!?」

ナッツの頭に強烈な拳骨が落とされた。目から火花を散らして、頭を押さえて机にうずくまる。寝起きで若干機嫌が悪そうな誠の目は、周りに皺が増えたような気がする。その原因が分かっているだけに、クレイ達はそっと心の中で同情の涙を流した。

「ったく、散々食い散らかしやがって……おーし席つくか」
「あ、そうだね。みんなどこがいい?」
「俺どこでもいいぞ!」
「俺は〜……どこでもいいよ。でも出来ればクレイの隣がいいなー?」
「余った席で構わない」

話し合いの結果。クレイの両脇にルカとナッツ、正面にはライチと誠となった。
後にルカは、うまいことクレイを壁にしてナッツを遠ざけられたと語る。

「……ねえずっと気になってたんだけどー……これ何?」

ルカは訝しげに目を細めて、煮込みに染み込む茶色をフォークでつつく。既にそれを口に入れていた誠が、きちんと飲み込んでから口を開いた。

「知らねーか?味噌っつーんだ」
「みっ……みそ……?」
「……言っとくけど脳ミソは関係ねーからな」

ナッツが顔面蒼白で頭を指差すのを見て、気の抜けたような声色で誠がフォローした。

「俺んとこの調味料でよ、ここに来る時に味が恋しくなるかなーって持ってきたんだ。こんな早く使うとは思わなかったけどな」
「あの……マコト君ってそんなに料理するの?さっきとかすごい手際良くてびっくりしたんだけど……」

さっきとは、クレイとルカがいない間下ごしらえをした時だろう。誠はフォークを弄びながら、んー、と唸る。その瞳には先程までとは違い、暖かく優しい光が灯っていた。

「料理は三食作ってるぜ。うまいかどうかは分かんねーけど、妹達が喜んでくれるからついはりきっちまうんだよな」
「ふぁほぉほぉひほうほひふほは!?」
「食ってから喋れ!!」
「ぶっ!?」

目から光が出ていると錯覚させるくらいの憧れの眼差しを誠へ贈るナッツだったが、口いっぱいに炒め物を頬張っているため二度目の躾を食らった。
残る三人は、誠がいてくれて良かったと心底思ったとか。

「えーと、ナッツ君は多分、マコト妹いるのか?って言ったんじゃないかな……」
「お前すげーな……。おう、いるよ。妹三人と弟二人」
「五人!?」
「それって六人兄弟ってこと!?」
「ま……まあな?」

正面からルカの、脇からライチの顔がぐっと近付いて、誠の穏やかだった笑顔がひきつる。クレイも声には出さないが、切れ長な目を大きく開かせ、サラダを食べる手が止まっていた。

「親は共働きだし、俺が一番上だから作ってんだよ」
「……それなら、今はどうしているんだ?」

珍しく、クレイからの質問だった。四人からの熱烈な視線に、誠はインタビューを受ける有名人にでもなった気分だった。
ただそれは、あまり良いものではなかった。

「今はここから近くの屋敷に住んでる。なんかよく分かんねーけど、親からも了承得たし妹達の面倒も見るし学費も払うから学園に来てくれって……」
「え、そんな事ってあるの?」
「うーん……普通はないんじゃないかな。そんな何人もいたらすごい額になっちゃうし……」

誠は眉根を寄せて腕を組み、ルカは丸くした目を瞬かせ、ライチはフォークにタレノ菜を刺して俯きながら考え込む。三人の周りの空気が重くなっていく中、クレイはふと視線を感じた。

正体は隣に座るナッツだった。クレイがまったく手をつけていない煮込みと、サラダを口に運ぼうとするクレイを交互に見比べている。その灰色の目には期待の念が宿り、まるで待てが解かれるのを待つ飼い犬のようだった。

「……好きなのか?」

ナッツは何も答えずに、首を上下させる。

「やろうか。あまり肉は食べないんだ」
「うんっ!!やった!」
「待て今聞き捨てならねー言葉が聞こえたぞ」

嫌がる素振りを一切見せず、クレイはサラダを咀嚼しながら煮込みをナッツの皿に移した。が、誠が早口で抑揚なく言い放ったので、二人して目を白黒させると動きが止まった。

「どうしたんだよ?マコト。……なんかおかしかったか?」
「てめえは話を聞いてたか!?おいクレイ……今何つった」
「……やろうか、あまり肉は食べないんだ、と……」
「それだ!!!」

鬼気迫る顔で、誠が机をぶっ叩いた。皿が一瞬宙に浮き、ライチとクレイの肩がびくりと跳ねた。ルカは当たり前のように食事を再開していた。

「絶対おかしいだろ!いかにも肉食べてますって体型してるじゃねーか!!」
「そうは言われても……家で肉を食べる習慣がなかったから、あまり進まないんだ。それに、体格は元々だ」

誠の言う通り、クレイの体格は並みの学生よりずっと逞しく、かつ長身だ。ローブを着ていても分かるほど肩幅は広く、手足は長いし大きい。男性なら一度は憧れるような、恵まれた身体をしていた。



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