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「ねークレイーごーめーんってば!ほら、今度何か好きなの奢るからさ〜」
すがすがしい青空の下、ひらひらと踊るように降っている薄ピンクの花弁が視界を遮る。二人は学園への並木道を歩いていた。ルカは手を合わせ、苦く笑いながらクレイに許しを乞う。眉間に刻まれる皺の数とへの字に曲がった口で、言葉はなくとも完全に彼が拗ねてしまったのは明らかだった。
「……人を玩具のように……」
「だってクレイ弄るの面白いんだも……ごーめんごめんって、俺とクレイの仲でしょー?」
その時のクレイの形相といったら、あの少年を襲ったウルフの群れだって尻尾を巻いて逃げ出していただろう。それでもごめんで済まそうとするところは、確かにルカとクレイの仲と言うだけの事はある。
「それにさクレイ、俺が言わなきゃ任務の事すーっかり忘れてたよね?」
クレイの目玉が、ルカがいる場所と真逆の方向にすっと移動する。
「……………………そんな事は」
「……あーやだやだ……クレイって嘘つくのへっったくそだよね〜。今に始まった事じゃないけど」
「うるさい」
「そんなんじゃ、いつか誰かに漬け込まれるよ?……今までは依頼受けて魔物倒したりなんやかんやするだけだったから良いけど、この学園に来たとなると……さ」
ルカのいつも通りの口調の中には、どこか真剣味が隠れていた。クレイは何も言い返せず、ぐっと息を詰まらせる。ルカの言う通りだからだ。
学園……即ち貴族の巣。ルームメイトが場を賑やかにしてくれたからと言って、学園が二人にとって様々な意味で危険な場所なのには変わりない。
(そうだ。……俺は……裏切り者だ……)
さあっと風が吹き抜けて、地面に敷かれたピンク色の絨毯を吹き飛ばした。
油断していると、いつ罵倒の言葉が飛んでくるか。氷のような眼差しが己を見つめて来るか。それはあの明るいルームメイト達も例外ではない。
もしバレたら、その時は身の破滅だ。
「……分かっている」
クレイは神妙な顔をして、自分の胸部を握り締めた。
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