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自己紹介からものの数分後。ルームハリーヌは、獰猛な戦士達が獲物を前にした時のような熱気に包まれていた。

「よおーっし、てめえらあああああああ!!準備はいいかああああ!」
「おおーっ!」

黒い布製の手提げ鞄を握りしめて、瞳の中にごうごうと炎を燃やしながら誠が吼える。負けじと後ろにいるナッツも腕を振り上げた。ライチは控えめに顔の横に拳を上げながら困ったように笑い、クレイとルカは……テンションに付いていけなかった。――同時に、どこかからぐうっと腹の虫が鳴った。

「マ……マコトぉ〜……腹減った……」
「分かってるっつの!てかはええよ!今何時だよ!」
「十時……だな」

壁掛け時計を確認したクレイがぽつりと呟く。ナッツは腹を押さえながら、何とも情けない顔をしてううっと呻いた。

「だって……ここ、広いし……迷うし……エネルギー、全部使って……」
「どんだけ迷ってんだよ……」

嘘を言っているようには見えないナッツに、誠は苦笑も出ない。それをフォローするように、ライチが慌てて口を開く。

「ね、ねえマコト君。ナッツ君がお腹すいて倒れちゃわないうちに、早く買い物に行った方がいいんじゃないかな」
「……そりゃ一利あるな」

誠が頷く後ろで、ルカは三人にバレないよう、クレイの肩を叩いてそっと耳打ちしていた。ぼそぼそを何かを言うと、それを聞いたクレイは、十六歳に見えない厳格な表情で頷く。そして最後にルカがふっと息を吹き掛けると、クレイは顔を強張らせてぞくぞくと肩を震わせた後に、ルカの足を思いきり踏んづけた。

「いっつぅ!!」

たまらずルカは、踏まれた爪先を押さえて跳び跳ねる。三人の視線が一斉にルカへと向かった。

「……自業自得だ……」

助けを求めようにも、クレイはクレイで素知らぬ顔をして、再びぶるりと震えた。余韻が残っているのだろう。
片足立ちをしているヘンテコな格好のルカに、ライチがおろおろしながら近寄った。

「ルカ君、大丈夫?ど、どうかしたの?」
「あーっいやいやなーんでも!ちょーっと机の脚に思いきり小指がー……なんて」
「おま、俺達靴履いてんだぞ?どんだけ強く打ったんだよ」
「あははー……」

へらへらと笑って誤魔化すのは、ルカの得意技である。誠はまったくここの奴等は……と呆れているし、ナッツは自分の事でいっぱいいっぱいだし、ライチも心配そうな眼差しで見られただけで済んだ。
周りをぐるりと見回して、今が絶好のチャンスと、ルカは息を吸った。

「……あっ!」

わざとらしい大声だった。しかし、ルカが発したとなれば自然に思えるのが不思議だ。
彼は手を頭の後ろに回してタイミングを見計らい、いつもの軽薄な口調で話し始める。

「ごっめーん、俺とクレイさ、学園に用があるんだよね!買い物は三人でって事でよろしくー」

言うが早いか、ルカは笑顔でクレイの肩を掴むと、ぐるんと背を向けるように方向転換させた。そのままぐいぐいと出口に押し出していく。

「はいはい、行きましょーねークレイさーん」
「分かったから押すな」
「あ、俺達飯に関しては文句言わないからその辺心配しないでー!それじゃ!」
「押すなと言って――」

バタン、と扉が閉まった。外でぼんやりと二人が会話しているのが聞こえる。
三人は拍子抜けして、どうするかとお互いに目配せをした。



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