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クレイの隣に座ってからも、ナッツは目をきらきらさせてクレイとルカを交互に見やっている。何故かそわそわしており、どうにも落ち着かない。

「クレイも、ルカも、すっごいなあ……」
「へ?」

一方で、ようやく耳鳴りと頭痛が落ち着いてきた二人は、顔を見合わせた。どちらとも、よく分からないと書かれた紙が顔に貼り付けてあるように、くっきりと疑問の色を表している。

「なんていうか、すごい大人みたいだ!こういうの、大人の……オーラ?って言うのかなあ……!」
「……そうか?」
(そりゃまあ、あんたと比べちゃったらねー……)

興奮気味のナッツに対応してあげる疑問に満ちたクレイに対し、ルカの視線は冷静だ。
クレイと話す……と言うより一方的に話しかけているナッツの姿を、目を皿のようにして観察する。表面上は純真無垢で、精神が幼児に憑依しても違和感は皆無だろう。とりあえずは任務に支障がなさそうな人物で、ルカは胸を撫で下ろした。

その時、ガチャリと再びドアノブが回された。ナッツは素直に後ろを振り向き、クレイとルカは表情を引き締め身構える。

「……どもー、ルームハリーヌってここだって聞いたんだけど……」

謙虚に発せられた声に、クレイとルカはほっとして気を緩めた。しかしリビングに入ってきたその人に、三人が三人ともガタッと音を立てて立ち上がった。

「えっ……と、いや、確かにルームハリーヌはここだけどぉ……」

笑顔が得意なルカも、思わず口の端をひくりとひきつらせる。
正面に立つクレイが生真面目な顔をして、それに同意するように頷いた。

「え?な、なんだ?」

入ってきた客人も、思いもよらぬ反応に狼狽えながら一歩後ずさる。
そして止めと言わんばかりに、まっすぐに客人へ指を差したナッツが、三人の思った事を代弁した。

「おお、お前…………っ、ここは……ここはっ、男部屋だー!!!」

信じられないという表情で固まる三人。その場に、どこか生ぬるい沈黙が流れた。訪れた客人は怪訝そうな顔をしていたが、やがてその意味が分かると、顔色が信号機のように青くなってから真っ赤に染まった。なんとも器用な事だ。

「だっ……誰が女だてめえええええ!!!俺は!れっきとした!!男だっつーのおおおおおおおおおおおおおお!!!」

脳天をハンマーでガツンと殴られたような衝撃が、三人に走った。

「ええええええええええええええええ!!?」

客人の魂の叫びに呼応するように、ルカとナッツの声が部屋中を飛び回り、反射した。クレイはというと、ぽかっと口を開いたまま絶句している。

しかし、クレイ達が女性と見間違うのも無理はない。その男は、腰まである艶やかな黒髪を頭の上で束ねており、通った鼻筋、薄い唇、黒々とした瞳。美人という言葉がこれほど似合う人物もそういないだろう。更に、深緑のローブで体が覆われているため、体のラインが分からない。
そうして見事三人の目を欺いた男は、膝に手を付きぜーぜーと肩で息をしていた。



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