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「……ねえクレイ、母さんが言ってたこと覚えてる?」
「当たり前だ」
ルカが頬杖をついて挑発的に笑った。クレイは表情なく頷いた。二人だけだというのに背筋を伸ばして座るクレイに、ルカは心の中でそっと溜め息を吐いた。
「……あのさあ……やっぱり俺、無理かも。子供らしくいるの」
ふ、と諦めたように笑うルカに、クレイは目を不思議そうに瞬かせた。
学園に行くのなら、出来る事なら子供らしく楽しんで……。それがギルドマスター、ひいては二人の母の願いだった。
壁にかかった丸い時計に目を移しながら、彼は言葉を続ける。
「俺、何でこんな風に生まれちゃったんだろーね。……学園、楽しめる兆しが見えそうにないんだよね。そりゃ、部屋はまあ良いけど……ホールの様子見てると、馴染めそうにないってか……」
「……ルカ」
らしくない、とクレイは思った。いつものルカはどんな時も笑顔で、弱音を打ち明ける事は滅多にない。飄々とした態度で、毒を吐きながらも立ち向かっていく。クレイはそれがルカという人間なのだと思っていた。
それほどまで、貴族という存在は彼の心を追い込んでいるのだろうか。
今、彼の中はどれほど荒んでいるのだろう。
クレイは心臓を掴まれたように、胸が苦しくなった。
「あー……やだやだ、ごめん辛気臭くしちゃった!ってかさ、クレイはどうなの?くま作った甲斐あった?」
へらりと平常通りの笑顔に戻ったルカは、身を乗り出して意地悪そうに口元を吊り上げる。
クレイは附に落ちなかったが、ルカはクレイの何倍も嘘が上手い。はぐらかされるのが目に見えている。少しの沈黙の後に、重い口を開いた。
「……俺は」
「たあぁぁぁぁぁぁぁぁのもおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
――頭が割れるかと、クレイは本気で思った。
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