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寮はどれも白を基調としているが、目に見えて分かる差がひとつある。その規模だ。A寮は二つの塔まで備わっている、お伽噺の世界にでも出てきそうな城。たかが寮だというのに、圧倒的な王者の風格が備わっていた。威圧感は校舎を簡単に上回る。住むのは上流貴族の学生と管理人だけなのが信じられない。B寮はそれに比べると二回りほど小さいが、それでも庭の花壇が恐ろしく綺麗に整えられており、貴族に気を遣った後が見られる。

「えー……」

ルカは隣のB寮とC寮を五回見比べて、顔を不快そのものに歪めた。せっかくの甘いマスクが不細工になってしまっている。クレイは淡々と、隅々まで見渡して寮の観察を始めていた。

C寮は、大きさだけならB寮より一回り小さい程度。しかし、同じ白い煉瓦を使ったというのに、外観があまりにもさっぱりしていた。ガラス張りの扉は手動で、B寮のような広いベランダもなく、白い直方体には窓しか付いていない。一種の監獄にすら思えて、クレイはまだしもルカは更に貴族と学園長が嫌いになった。

クレイは興味も関心も持たない様子で、先に入り口の扉を押し開ける。扉に備え付けられたベルが透き通った音を鳴らした。ロビーは、学園が設立されたばかりだからか小綺麗だ。暖かみのある木材が使われたテーブルや椅子が数個並び、奥に鍵を管理するカウンターがあった。これは一体何の偶然か、二人にとってのマイホームとそっくりな構造をしている。二人の口は苦笑を漏らすので精一杯だった。




鍵を受け取って、二人はルームハリーヌの意味がすんなりと理解できた。鍵の持ち手にはハリーヌの絵が彫られていたのだ。なるほど、部屋を番号で覚えるよりは確かに効果的だ。

白寄りのねずみ色をしたカーペットは、悪くない歩き心地だった。壁は真っ白で、等間隔に設置された窓からきらきらした陽が射している。
クレイ達の部屋は最上階の五階だった。階段の踊り場で、小さな埃を見つけた。手刷りは茶色。一段ずつ滑り止めが付いている。クレイはそれらを頭に叩き込んだ。

「なにこれ、普通にかわいいじゃん」

扉の前で、ルカが呟いた。黒い木材を使った扉は、本来部屋番号が書いてある場所に手のひらサイズの円がくり貫かれている。そこには、デフォルメされたハリーヌの絵がぴったりとはめこんであったのだ。クレイがドアノブの真上にある鍵穴に鍵を差し込むと、スムーズに回った。がちゃり。耳に入ってきた音は、この学園に来て初めて輝いた。

入ってすぐに簡素なキッチン。リビングにはテーブルと五つの椅子が置かれている。ハリーヌの柄をしたテーブルクロスは、ルカはとても気に入っていた。リビングから、左右に部屋が分かれていた。片方は五つの机が内側に向いて密集しており、周りは本棚が並べられている不思議な構造。もう片方は寝室。寝室は二段ベッドが両脇に置かれ、正面奥にシングルベッドが一つ。

「……取り合いにならなければいいねー」
「そうだな」

一通り見回った二人は、何とも言えない気持ちでリビングの椅子に座った。



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