1
少年捜索の依頼を解決してから、三日が経っていた。クレイとルカをカウンターへと呼び出したギルドマスターだったが、一ヶ月に一度来るかどうかの任務を受け取った時とは違い、非常に浮かない顔をしている。その理由が分かっているのか、二人はそんなギルドマスターを疑問に思う素振りは見せない。
「クレイ、ルカ…………ううん、……【真紅の皇帝】に【守護の雷神】……」
蚊の鳴くような声で呟いた二つの名前に、クレイもルカも不快そうに眉を潜めた。
電気がギルド全体に張られたようなピリピリとした重い空気の中、ギルドマスターは控えめに、一枚の紙をカウンターに置いた。
「またギルド本部への移転指令よ……」
「ったく、懲りないねぇ〜。ここから離れる気はないっつったのに……あのくそジジイ共耳がないの?」
ルカは口調こそ軽いが、段々と荒々しい口振りへ変化している。瞳には鋭い眼光が見え隠れしており、毒を吐くと共に耳をほじった。クレイはと言えば、汚い物でも見るように紙を睨んでいる。
「……しかも、今回はそれだけじゃなくて……断るにも条件があるのよ」
「へ?条件?」
丸くした目をぱちぱちと瞬かせるルカに、ギルドマスターは、小綺麗でカウンターの雰囲気とは浮いている指令書の中心辺りを指差した。
「移転を断るようなら、確実に長期になる、設立四年の新設学園、サファーリィの四分の一を領地とするアルティマニー学園潜入の任務を課する。それも断るなら……」
そこまで言って、ギルドマスターはぐっと、強く唇を噛み締めた。先に読み進めていたクレイは、それを目の当たりにした瞬間、切れ長の目を見開いて固唾を飲む。
「……ギルドマスター?」
「な、何でもないわ。……それでも断るなら、ね……。……ここを…………『母の愛』を、廃棄する」
「……は!?」
ルカは慌てて紙を覗き込む。太線になっている訳でも、下に線が引かれている訳でもない。当たり前のように、二人にとっての絶望がそこに記されていた……。
1