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「ハーイ、お疲れさん」

聞こえてきた陽気な声に、クレイは瞼を開ける。ルカが普段通りの笑顔で、クレイの顔を覗き込んでいた。

「……気付かなかった、いつからいた?」
「さっき。ふっつーに入ってきたのに……そんな疲れた?」
「まあ……な。これなら確かに、魔物討伐の方が気が楽だったかもしれない」

ばつが悪そうな顔をしてぼりぼりと頭を掻くクレイに、ルカは得意になってふんぞり返る。

「でしょ?でしょ?貴族には必要以上に関わっちゃ駄目だって!クレイも転移して来れば良かったのにー」
「駄目だ。二人以上の同時転移は総合ギルド魔法協会法で禁止されている」
「はい反論!あの辺の項はギルドSランク以上の人は免除されてましたよクレイ君!SSランクの僕達にはカンペキ適用されませんが!?」

ルカの堂々とした挙手と反論に、クレイはぐっと言葉を詰まらせて目を逸らす。それからぼそっと、消え入る程の震える声で呟いた。

「…………った、」
「んー?」
「出来なかったんだ。……あのまま転移していたら、俺一人でも集中が乱れて失敗していたかもしれない」

顔を伏せてとつとつと話すクレイに、ルカは張り付けていた軽薄な笑いを消した。

「あの子供は何も悪くないという事は十分分かっている。むしろ怖がらせて申し訳ないと思った。…………なのに……!」

ガッ!と勢い良く、クレイは己の頭をぐしゃぐしゃに掴み上げた。頭皮に爪が食い込み、その指にぎりぎりと力が入るのを、ルカは表情なく見ていた。

「貴族……貴族、貴族……!それだけで……何故……っ俺は……!!」
「クレイ」
「っ……くそ……俺は、結局……何もっ強くなれていない……!」
「落ち着けよ、クレイ」

低くはっきりとした声にクレイの脳が痺れて、頭を掻きむしる力が緩んだ。
手を下ろして顔を上げれば、クレイの目をまっすぐに見るルカがいた。いつもとはまったく違う真剣な彼の姿に、クレイは一瞬、言葉というものを忘れてしまった。

「クレイは悪くない。悪いのはみんなあいつらじゃん」
「……だが、俺は」
「許すのが強さなの?罪を全部手放しで何もかもを許すのが、クレイの言う強さなの?……俺はそうは思わないね。俺は貴族を一生許さない。貴族をこの手で……俺の命にかえても、絶対に殺してみせる」

そう言うルカの目は、使命感に燃えるヒーローのように、ギラギラと不思議な光をたたえていた。
貴族を殺す……そんな物騒な内容であろうと、今のクレイには、ルカがとても強く見えた。

貴族。それはどんなに足掻こうとも、避けようとも、二人の人生に大きく関わっていく忌まわしい存在だった……。



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