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「あーやだ。ほんとやだ。やだやだやだ、もー困った、困った困った!なんか俺が悪者みたいじゃん。てかあのガキほんっとムカつく!びくびくしやがってさ、言いたい事あるならはっきり言えっつーの。だから貴族のくそガキなんかのお守りの任務は嫌だってあれだけ言ったのにクレイはクレイで引き受けるしさあのバカ。任務大好き任務バカ。ガキに対していつもより気遣ってあーもーやだ、これだから心ポカポカ〜なお人好しは嫌いなんだよ。貴族が俺達に何したか分かってんのあいつ、見ててもう吐き気すらしてくるよほんとに」
「随分と気が立ってるのね?ハリーヌみたいよ」

女性の薄い唇に笑みが作られて、ルカは眉間の皺を増やした。ハリーヌとは魔物の一種で、小動物のような愛らしい生き物だが、背中には無数の針を生やしている。早い話、俗に言うハリネズミに似ている。

「人と魔物を一緒にしないでくださいー。……ほんとにさ、……クレイは、バカだよ」

語尾に行くにつれて、小さくなっていく言葉。スプーンを乱暴にかき回していた手が、止まった。それからゆっくりと上半身を起き上がらせるルカに、女性は新しいアズマリーを淹れていた手を止めた。

「今もあのガキといて……辛くないはずがないのに。口数すっくないくせに話題のレパートリー振り絞って……子供だからって……」
「子供だから、でしょ?それにそんな心配なら抜けてこなければ良かったじゃない」
「悪かったね、色々我慢出来なかったの。察してよ。はーあ、今度からクレイのこと任務バカって呼んでやろうかな……」

ルカはカップに注がれた、赤茶の液体に映る自分の顔を見つめる。口では散々罵ったものの、表情は怒っているどころか、むしろ情けなくなっている。彼はそんな己を嘲笑した。

幽霊でも出てきそうな洋館にありがちな、ギギッと古びた音が響く。カラン、と扉の上に備え付けられた鐘の音もして、ルカは笑顔を張り付けて振り返った。

「おっかえりぃー、任務バカ」
「……何の話だ」

案の定、渦中の人であったルカの相棒がそこにいた。一言付け加えたおかげで、随分と不機嫌にさせてしまっていたが。
その横にいる子供は、触らぬ神に祟りなしと、再び見てみぬフリをした。



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