6
森を抜ける間、誰も何も話さなかった。少年は言わずもがな、クレイは相変わらず無表情であるし、ルカは少年と距離を取っている。そのため、必然的に少年に寄り添われるクレイとも距離を取る事になり、何より雰囲気が最悪だった。
そうして三人は、煉瓦の壁に守られる目的地に到着したのだった。
「このままギルドまで行くが……」
クレイの視線が少年の腕に移った。その先が彼の傷だと分かると、当人ははっとして大きく首を横に振った。
「だ、大丈夫です!行きましょう!」
「……すまない」
申し訳なさそうにクレイの眉が下がるのを見て、少年の胸が痛んだ。
(怖いのはこの人のせいなのに……)
少年は、あれから自分を一切見ないルカを見上げる。その瞬間彼がわざとらしく溜め息をついたので、少年は肩を大きくびくつかせた。
「クレイ、やっぱ俺先ギルド戻ってる。人ごみ嫌いだし?」
「分かった。出来る限り早く向かおう」
「じゃあおっ先ー。……あーあ、だからジャックワイバーン討伐の方が良いって言ったのにー」
ルカは当たり前のようにぼやいているが、少年はその出来事が夢かと思った。
ルカがひらひらと振っている手が、足の先が、頭頂が、凄まじい早さで粒子となって消えていく。一秒もかからないうちに、先程まで足をつけて立っていたルカは、影も形も消え失せていた。
「……転移が珍しいか?」
いつまでも固まっている少年を見かねて、クレイが比較的優しい口調で問う。少年はごくりと唾を飲むと、小さく頷いた。
「べ、勉強はしました。でも、魔力のコントロールがすごくうまくないと駄目だって……」
「ああ。……自分の体を粒子に変えて、更に行き先に自分がいるイメージをしっかり持たないといけないからな。下手したら一生粒子のままさ迷う」
「じゃ、じゃあ、何でさっきの人は」
「それが出来る人間だからだ。それ以上もそれ以下もない」
そう言うクレイの瞳には、どこか力強さが宿っていた。有無を言わさず街へ足を踏み入れるクレイを見て、少年も慌ててその後を追った。
透明ガラスのショーウインドウに並ぶ、魔物の革を使ったバッグ等のファッショングッズ。街角では子供達にひょうきんなピエロがウルフを形作った人形や紛い物の杖、はたまた花束を作ってはプレゼントしている。中心の噴水広場では、ちょこちょこ赤や緑など色鮮やかなローブを着た学生も見かけた。木陰に座り休む男性、楽器を取り出し練習しようとする女性、街の名物である「弾む果実」……バウンドベリーの飴を舐める女子学生などが思い思いの時間を過ごしている。
クレイはそれらに見向きもせず、淡々と賑わう街中を通り過ぎていく。少年にとって見慣れた街並みのはずが、横にいる人物のせいで一変したかのように見えるのが不思議だった。
6