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「ねえ聞いた?うちの学園の生徒が行方不明なんだって!」
「えっ嘘!?誰誰!?」
「名前は知らないけど高等部の人らしいよ!」
「言の葉寮に住んでる先輩でしょ?前テレビの取材まで来てたよ!」

教室の入り口付近で通行を遮る、噂好きな至ってどこにでもいるクラスメート達。今だけ「赤鬼」……陸弥は、それが恨めしかった。話に上がっていた言の葉寮に住んでいる彼は、顔を見られないように、そそくさとその固まりの横を通り過ぎていく。陽菜も空良も水姫もいない中、陸弥はひとり窓際から三つ目の席についた。三人はあくまでも仲良しな寮生兼幼馴染み。クラスまで同じにしてくれるほど、神は甘くなかったのだ。

言の葉寮の事件の事は、陸弥はむろん知っていた。わざわざ記者が押し掛けてきたのだから、知らない方がおかしいくらいだ。原因は不明、寮を出た痕跡もなく、忽然と姿を消してしまった高等部二年生四名。一ヶ月前からその顔をどこにも見せていない。目撃者もなく、謎が謎を呼び、嫌な形で言の葉寮を世に知らしめた奇怪な事件だった。
中でも行方不明者の一人は、その黒髪と陸弥より更に高い長身を除けば、陸弥とまるで瓜二つ。その実、彼の従兄弟であった。肉親の行方が分からない現状に、陸弥の表情に影が落ちない訳がないのだ。

物思いにふける陸弥に、声を掛ける者は存在しない。所詮「赤鬼」である彼に、クラスメートの味方はいない。周りから恐怖される事を知っているからこそ、陸弥はクラスでは徹底的に大人しくしていた。それがまた彼に不気味な印象を植え付けている事など、知るよしもなく。
程なくしてホームルームの鐘が鳴り、それぞれ固まっていたクラスメートがばらばらと着席していく。今からの時間ほど、陸弥にとって憂鬱な時はなかった。寮での朝食を思い出しながら、陸弥は石になった気持ちでじっと時が経つのを待った。待った。待つ事しか、出来なかった。



結局いたたまれなくなった陸弥は、一限開始のチャイムをBGMにして、屋上の扉を開けていた。普段屋上は浸入禁止で、ご丁寧にその手前には黄と黒のボーダー色のロープが張られている。しかし陸弥は、当たり前のようにそれをくぐってきた。教室から逃げてしまったと後悔する反面、そこでよく出会うある人物に会うのが、最近の陸弥の密かなる楽しみだった。

彼はそこにいた。陸弥とは正反対に制服である濃紺の地のブレザーをギリギリまで着崩し、前髪の一部に赤いメッシュが入ったくせのある茶髪を風に弄ばせながら、背の低い仕切りのフェンスにもたれていた。まるで、陸弥を待っていたかのように。その光景を見るやいなや、途端に陸弥の頬が上がった。一歩踏み出せば、つり上がった猫のような目と視線がかち合う。

「よお」
「……史雄」
「やっぱり来たな。お前も不良になったもんだ」

皮肉げだが嬉しそうに笑いながら、彼はどっかりと座り込んだ。
荒鬼史雄(あらきしお)。れっきとした不良少年であり、陸弥が住む言の葉寮の一員である。食えない笑みと態度の悪さで周りから敬遠されているが、不思議と陸弥とは付き合いがよかった。

「なあ、不良って、……悪い事だよな?」
「いや、良い訳がねぇだろ。……不良って漢字で良くあらずって書いて不良なんだぞ」
「だが、何だかかっこいいとも言われていたし、」
「そりゃ皮肉もあるだろ、分かれよばーか」
「……そうだったのか……!」

拳を握り締め、ただならぬ剣幕でショックを受けている陸弥に、史雄は呆れながらも小さく笑みを溢した。付き合いが良い理由は、もしかしたらこういう所にあるのかもしれない。史雄の飄々としつつも裏表なくはっきりとした性格に、陸弥は自分を躊躇なく表せられた。一方、陸弥の外見からは想像もつかない純粋さと突拍子のなさに、荒んだ史雄の心は浄化されていたのだ。

 

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