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シャボン玉が飛んだ。


いや。シャボン玉ではない。空気のまるだ。自分は今、どこにいる?目が見えない。見えるのは、なにか得体の知れない線が作り出す輪と、真っ暗な背景。目が開かない。どこにいる。自分は今、何をしている?分からない。口が開かない。見えない力に全身が押さえつけられているようで、まるで金縛り状態だ。動かない、指先。動け、指先。動け、動け動け動け動け動け動け……逃げ出すんだここから。

――――――う。







俺 の、こえ?



ぜっ―――やく―――だ。


口は開いてない、開かない。
何故、こえが ?どこから?


生まれ―――ら、む―――う、俺達。


分からない、分からないが。胸がぎゅうぎゅうと締め付けられる。苦しい。吐き出したい。叫びたい。空気を出したい。呼吸が、できない。
まさか。自分は……もしかして。
しっているのか?この、こえを



愛している―――


「―――――」





リアナ…………






「り……あ……っっはぁああっ!」

十年分の空気を一気に吐き出した。気がする。吐いて、吸う。吐いて、吸う。異常に血液を送り出している心臓が、異常な酸素を欲している。まだ初夏だというのに、額が汗でびっしょり濡れているのが感覚で分かった。赤黒い髪の毛から汗が滴っているのだ、嫌でも分かった。星柄パジャマに汗が吸い付いて気持ち悪い。せっかくのお気に入りなのに変色してしまっている。頭痛も合わさって気分は悪い。がつんと額を殴られたみたいだ。

「…………リアナ」

それにも構わず、夢で俺の声が言っていた事を、反芻してみる。自分の声は自分が一番よく知っている。間違えるはずはない。ベットから降りて若干ふらつきながらも立ち上がると、再びリアナ、と言ってみた。外で雀が鳴くだけで、誰も何も反応してくれなかった。
頭痛より疑問が勝っていた。あんなにもはっきり覚えていて、あんなにも不思議な夢は見た事がない。夢である事すらも疑問に思う。脳内に刻みつけられた俺の声は何故、

あんなにも嬉しそうで、
あんなにも、かなしそうだったのか。

なんとなく、前に大切な幼馴染みから聞かされた、ロミオとジュリエットという話を彷彿とさせた。何故その例えが浮かんだのか、自分でも分からなかった。
リアナの三文字に頭の中を支配されながら、俺はいつも通り制服に袖を通した。
遅刻もしてない。不思議な夢を見た割には、いつも通りの日常の始まりだった。

 

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