たまたまだった。本当に偶然、イミテーションを追ってやってきたクリスタルワールドで、寂しげなか細い背中を見つけた。
あ、クジャだって思って、すぐに引き返そうと思った足が止まる。泣いてんのかな。泣いてんだったら理由が知りたい。こないだは俺が慰めてもらったから、今度は俺がなぐさめてやりたい。結局あのことをクジャは誰にも言わなかったみたいだった。次会った時は何事も無かったかのようにジタンに絡んでて、俺なんかには目もくれなかった。
少し迷って、やっぱり前に進む。
「なーにやってんスか。」
クジャはとっくに気付いてたんだろう。振り返りもせずに、煩わしそうに手を振って顔をひそめた。
「あぁ、君か。悪いけど、今君と遊んでやる気分じゃ無いんだ。見逃してやるから余所へお行き。」
予想以上に冷たい言葉が飛んできたけど、気にしないことにして隣に座る。クジャは泣いてないけど、きっと泣きたい気分なんだ。だってさっきから下ばっかり見て、握ったこぶしは白くなっている。
「何かあったんスか?」
「君には関係無いだろう。」
「でも、知りたい。」
「ふん、君ごときには分からないよ。」
二人の間に、沈黙が落ちる。クジャは喋る気は無いみたいで、しょうがないから前から疑問に思ってたことを聞いてみることにした。
「そういえばさ、クジャには尻尾ないんっスか?」
「…はぁ?」
「いや、ジタンにはあるのにさ。兄貴のクジャに無いのは何で、か、なーって…」
クジャの、冷たい視線が突き刺さる。ヤバい、怒らせたかもしんない。慰めたくってきたのに怒らせるなんてバカじゃん俺。
困って、焦って、しどろもどろになる俺に、クジャは冷たい視線のままため息をついた。
「はぁ。全く、これだから馬鹿は嫌いなんだよ。」
そう言ったクジャはでも、ちょっとだけ視線が優しくなっていた。そのまま無言で座り続ける。俺は怒らせるのが怖くて喋らないし、クジャも何も言わない。こんな沈黙も悪くないなって思い始めたころ、クジャがぽつりと言葉を零した。
「ニンゲンってのは、どんな気分なんだい。」
びっくりした。クジャの頼りない声にも、内容にも。それじゃあまるでクジャが人間じゃないみたいだ。そしてクジャが人間じゃないってことは、ジタンも。
「人間ってゆうのは…何か、明日何しようとか、夏になったらどうしようとか、大きくなったらとか、そんな希望に溢れた気分なんじゃないっスかね。きっと。」
必死に言葉を探すけど、クジャの求める答えが、ニンゲンってヤツの正しい答えがこれでいいのかは分からない。クジャは一瞬黙って、そうっと、壊れるのを気にするみたいに俺に聞いた。
「…なんだい、それ。まるで君がニンゲンじゃないみたいじゃないか。」
「俺は…その、人間ってゆうよりは、バハムートとかシヴァとか、そっちに近いから。」
自分の説明さえ、これでいいのか分からない。でも、それ以外に何と説明していいのか分からなくて、また黙る。
二人の間にはまた、沈黙が横たわった。
ふいに、クジャが顔を上げて、そうしてようやく俺達は向き合う。
「じゃあ…召喚される瞬間ってゆうのは、どんな気分なんだい。」
今度こそ本当に、俺は困りきってしまった。
「さあ、どうなんだろ。
俺は人間よりはバハムートに近いけど、やっぱり人間だから。」
「そうかい。………そうか。」
そう二回呟いて、また俺とクジャは前を向いたまま黙りこくる。
でも知らない世界に放り出されるのは、夢も希望もありませんって感じっスよ。と呟けば、クジャは少しだけ笑って、それは分かるかもしれないなぁ。と囁くように言った。
そのまま誰も喋らずに、俺達は俺の仲間が探しにくる気配がするまでずっと二人並んで座ったまま、遠くを見ていた。
2010/11/08 12:13