「うわぁぁぁああああぁぁおおぉげぇえええ」
「ばっ、テメ、吐くなよ!」

畜生、ちくしょう。泣きすぎて頭痛いしなんか吐きそうだしもうマジでもう死にたい。くそ、もう…。

「おーい、なぁ。泣き止めってー。」

慰めるジタンの声も大分適当になってきた。当たり前だ。泣き出してからもう2時間は経ってる。俺ならとっくに見捨ててるのに、まだ傍にいてくれるジタンはなんて優しいんだ。マジかっこいい。好き。喉渇いた。
分かってたんだ、分かってた。無理だって事くらい馬鹿な俺でも分かってたさ。でも好きなんだから仕方ないだろ。
本日俺は、フラれました。

「う、うう、うぁぁ…。」
「コレ飲め。で、ちょっと落ち着け。」
「うぅう…」

地面に突っ伏してグスグスと泣く俺の背中をジタンがそっと撫でる。何でそんないい男なわけ?もそもそと起き上がって、ジタンが差し出すカップを両手で受け取る。甘くて優しい臭いの液体を飲み下したら、少しだけ気分が浮上した。

「どうだ?美味いだろ?俺特製だぞ。」
「ちびっ子ジェントルマン…」
「お前マジ喧嘩売ってんのか。」
「売ってないっス…」

ジタンはガシガシと頭を掻くと溜め息を一つ吐いて、俺の頭に手を乗せた。

「本当はレディにしか作んないんだからな。有り難く思えよ。」

レディにしか。その言葉にまた目が熱くなる。じわじわしてきて、泣きそうだ。でももうさっきみたいに泣き叫ぶ体力は無い。俯いた俺に、ジタンが慌てたように頭に乗せた手を降ろした。

「あっ、ほらもう泣くなって!」
「だったらもっと撫でて…。」
「えぇー…。」

文句を言いながらも、ジタンの手が再び俺の頭に乗った。ゆるゆる撫でられて、目を細める。何でこんな優しいんだ。何で俺は…

「うぅ…女に生まれたかった…。」
「はぁ?」
「そしたらジタン俺にプロポーズすんじゃん…。」
「凄い自信だなお前。」
「うぁあ…。」
「だから泣くなって!」

もうダメ。我慢出来ない。やっぱり泣き出した俺に、ジタンはあ゙ー、と変な声を出して隣に座った。尻尾が俺の背中をさする。

「そんな事言ったってさ、無理なもんは無理だって。」
「うぅぅう…」
「な、しょうがないだろ?俺は男でお前も男、そんで俺は女の子が好きなんだから。」

分かってるさそんな事。でも好きなんだからしょうがないだろう。分かってて俺に優しくするジタンが悪いんだ。
朝起きて顔を洗っていたら、タオルを差し出された。そのタオルで遠慮無く顔を拭いてから見たら、差し出していたのはジタンの尻尾だった。本人は隣で歯を磨いている。ビックリしてる俺に視線をチラッと流して小さく笑うその横顔。王子様だった。かっこよすぎた。そこで思わず「ジタン、好き!」と叫んだ俺に、ジタンはあの王子様ボイスで爽やかに「無理。」と返した。その場で泣き崩れて今に至る、と。
因みに俺の熱い告白もジタンのつれない返事も、俺が噎び泣く流れまで含めて、今までこなした数は20を優に越えている。まぁ、簡単に言うといつもの事だ。
水場の隣でやってるから当然仲間は何度も来る。しかし俺がジタンに告白してフラれて泣くなんてのはいつもの事なもんだから、誰も気にしない。バッツだけは「俺が慰めてやろうかー?体で。」とか言ってきたけど、俺が殴り掛かる前にジタンが追い払っていた。何それ。期待しちゃうよ、俺。そんな風に俺の事が大事みたいな事するから、俺はますますジタンが諦められないって気付いてるくせに、ジタンはまだ俺に優しくする。何だよ、それならもう抱いてくれよ。優しくするくせに何でそこは拒否んだよ。

「なー、泣き止めって。」
「じゃあ抱いてくれ。」
「やだよ馬鹿。」
「うごぁああ…」
「何で泣くんだよ!」

地面に両手を付いて泣く俺の上に、カシャンという音と共に影が落ちた。誰だ、俺とジタンのスイートタイムを邪魔する奴は。ジタンがこんなに構ってくれるのはこうして俺が咽び泣いてる時だけだ。それ以外は俺の事なんか見向きもしないで、あのムッツリ根暗やアホ茶髪と遊びに行ってしまう。くそう、マジ羨ましい。
睨みつけてやろうと顔を上げた先にいたのは、何とも珍しい事に光の勇者サマだった。普段は近寄ってもこないくせに、どうしたんだ。困惑してるのはジタンも同じらしく、何とも微妙な空気が流れる。最初に動いたのは、ウォーリアだった。

「ティーダ。」
「な、なんスか…。」
「おいで。」

なんスかそれ。
そんな優しく膝を付いて両手を差し出されたら、愛に飢えた俺が靡かない訳ないじゃないスか。ウォーリアの登場で引っ込みかけた涙が、じんわりと視界を曇らせた。

「おいで、ティーダ。」
「ウォーリアァァァア!」

広げられた腕に飛び込む。そのまま抱き着いてしがみつけば、思いの外優しい腕が背中に回った。頭に添えられた手がユックリと動く。

「そんなに泣くんじゃない。」
「うおぁぁあ。」

首に回した腕に力を入れたら、背中の腕が力強く俺を支えて、そのままウォーリアは立ち上がった。すげぇ。膝付いた状態から人抱えて立ち上がるって普通できるもんなの?今度腹筋触らせてもらおう。

「ほら、いい子だ。ティーダ。」
「うぉぁああぉおん」
「え、ええー?」

もうジタンなんか知らん。一生女の子の事だけ考えてろ。しゃくり上げながらウォーリアの肩に顔を埋めようとして、俺は重大な事実に気が付いた。

「どうした?」
「………。」
「ティーダ?」

なんてことだ。何て事だ。ウォーリアとジタンが黙り込んだ俺を覗き込む。急に黙り込んだ俺に困惑してるんだろうが、正直俺はそれ所じゃない。なにコレ。なんなの。なに考えてんの。

「超かてぇし…。」
「ティーダ?」
「鎧とかなんなの。マジもう…もぉー…うぇぇぇええ…」

ズリズリとしがみついていたウォーリアから降りる。マジ有り得ない。大体鎧ってなんだよ。ファンタジーかよ。重いだろ。

「もぉやだぁぁー…」
「す、すまない。泣くんじゃない、ティーダ。頼むから。」

焦ったようにウォーリアが俺の肩に手を置いたけど、それを払う気力も湧かなくてその場に座り込んだ。

「うぉぇえええええ…」
「泣ーくーなって、な?」

やっぱり地面に両手を付いて泣く俺の涙を、暖かくて柔らかいものがそっと拭う。俺はこの感触を知ってる。目を開ければ、やっぱり金色のジタンの尻尾が目の前にあった。そして俺のよりも幾分か小さい手。その手にそっと顎を掬われる。

「お前は笑ってた方がいいよ。」
「ジタン…。」
「ん?」

何そのイケメンスマイル。何そのイケメンボイス。何それ。そんなんもう俺どうしようも無くなっちゃうじゃん。そんな優しい瞳で俺見てどうしようっての。俺ジタンになら何もかも捧げちゃいますよマジで。マジで。

「好きだぁぁぁあああ」
「あ、それはごめんなさい。」
「うがぁぁぁぁああああああああおえっ。」
「だから吐くなっつってんだろ馬鹿!」

んだよ何だよ俺知ってんだぞお前も俺の事結構好きじゃん。ウォーリアに嫉妬していつもの3割増し俺に優しくするくらいには俺の事好きじゃん。
もう認めろよそんで俺にちゅーしろよこの猿!!

「好きぃぃいいいぅああああ」
「だからそれは無理。」
「もぉぉぉおおおお!!」

四つん這いで泣き叫ぶ俺と、それをしゃがんで適当に慰めるジタン。そして完璧に離脱の機会を逃して俺達をぼんやり眺めるウォーリア。ウォーリアを回収に来たセシルに怒られるまで、俺達はもうすっかりお馴染みとなった不毛なやり取りを続けたのだった。

もうじゃあ愛とか無くていいからセックスだけしてください。
そう言ったら尻尾で叩かれた。結構本気の強さだった。
なんだよやっぱり俺の事好きじゃん認めろよ!!





2011/03/24 02:03
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