フリオニールはたまに、ちょっと怖い。優しい仲間の顔を捨てて、男の顔になる。そんなフリオニールも好きだけど、ちょっと怖い。

パンデモニウムで二人、何気なく話をしていた。俺は段差の上に座り、その隣、段差に肘と背を付いてフリオニールが立つ。ジタンの尻尾がどうのバッツの服はどうのと下らない話をしていたはずだった。普段は高い所にあるフリオニールの顔が下にあるのが何だかやけに嬉しくて、俺は少しだけはしゃいでいた。
穏やかに笑うフリオニールが、ふと言葉を止めた。一瞬の静寂が終わって、フリオニールは顔をこちらに向ける。その瞬間に、俺はフリオニールと俺の関係が仲間じゃない別の何かになったのを理解した。

「フリオニー、」
「ティーダ。」

体を反転させたフリオニールが、両腕で俺を囲う。いつもと違って低い位置にある顔が近づく。避けるのは簡単だ。背筋を伸ばしてしまいさえすればいい。そうすればフリオニールは届かない。
でも俺はそうしなかった。身を屈めて、顔を寄せる。フリオニールが僅かに笑った気配がした。

唇が重なって、フリオニールの両腕が俺の腰に回る。もっと近付きたくてフリオニールの頭を抱えるように抱きしめた。唇が離れる僅かな間に、俺の息だけが荒くなっていくのが少し恥ずかしい。普段ジタンやバッツにチェリーだってからかわれてる癖に、なんでこんなに余裕そうなんだ。フリオニールの馬鹿。
突然、それまで緩かったフリオニールの腕に力が籠もり抱き上げられる。驚いて強張る俺を危なげなく抱えたフリオニールはその場に膝をつくと、まるで俺がガラスでできた宝物であるかのようにそっと、今まで座っていた段差を背に当てて地面に座らせた。別に、ちょっとぐらい乱暴にしたって俺壊れないっスよ。前に一度言ってみたら、甘い甘い蕩けそうな笑顔で「大事にしたいんだ。」と言われた。反則だ。そんな風に言われたら、俺はフリオニール以外何も見えなくなってしまうのに。

「はっ、フリオッ、」

重なった唇から洩れる声は本当に自分のものなのだろうか。掠れていて熱い。
俺の足の間に膝を付いたフリオニールが、身を屈めて両腕で俺の頬を包む。
うっすらと目を開ければ、フリオニールの長い睫毛が見えた。その下にある琥珀の瞳を想像する。あの宝石のような瞳の持ち主が今、俺に真剣に口づけてる。考えるだけで、ドキドキする。
フリオニールの唇が離れて、変わりに首筋に僅かに湿った感触が訪れる。頬にあった手が俺の剥き出しの腹を撫で、反対の手は抱きしめるように背中に回った。
思わずビクリと背筋が跳ねた。この瞬間だ。この瞬間のフリオニールが俺はちょっと怖い。俺の知らない、大人の男の顔をしている。

腹を撫でていた手がそっと離れ、再び頬へ戻される。唇も同時に再度重なる。開いた隙間を埋めるように体を浮かせれば、フリオニールにきつく抱きしめられた。

「フリオニール、フリオニール。」
「ティーダ。」

額に、頬に、鼻に、顎に、瞼にとフリオニールの唇が触れる。触れられた箇所が熱い。最後に耳に軽く歯を立て、もう一度唇に触れてからフリオニールは離れていった。

「そろそろ戻るか。皆が心配するかもしれない。」
「うん。」

そう言って体を起こしたフリオニールは、既にいつも通りの仲間の顔に戻っていた。でも瞳の奥には僅かに熱が宿る。俺を怖がらせる色だ。いつかこの色に慣れたら、俺達はもっと先に進むのかな。それをフリオニールに尋ねる気にはならなかった。
伸ばした俺の手をフリオニールが掴んで引き起こす。すぐに離されるかと思えた手はそのまま俺の手を握り込んで、恋人のように指が絡まった。

「フ、フリオニール、手っ!」
「ん?」
「皆に見られたら…」
「大丈夫さ。ほら、足元見ないと転ぶぞ。」
「あ、うん…。」

例の甘い笑みを浮かべて俺を見たフリオニールが、もう一度しっかりと指を絡め直して歩きはじめる。コンパスの違う俺に合わせてゆっくりと。
反則だ。ズルイ。そんなことされたら俺はやっぱりフリオニール以外目に入らなくなってしまうのに。

そんなに優しいなんて、ズルイ。フリオニール以外見えなくなっちゃうっス。
ポソリと苦情を言えば、さっきよりもっともっと甘ったるい笑顔を浮かべたフリオニールが、「喜ばしいことじゃないか。」と囁いた。





2011/03/02 00:44
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