※『君が幸せになりますように』のティーダバージョン。バージョンなだけであって続きものではありません。



「ティーダさん、ティーダさん。」
「あ?」
「ヨダレ、垂れてますよ。」
「うぉっ!」

ジュルリ。やべぇやべぇ俺としたことが。手の甲で拭うが、視線は外さない。はぁ〜やっばいよなぁ、格好良いよなぁ。

「どーこが良いんだか…。」
「分っかんないかなぁ。」
「だってお前、男だぞ?しかもムキムキ。高身長。三重苦じゃねぇか。」

そう言ってジタンはコップの中の氷を転がした。カラカラと涼しげな音が鳴る。

「格好良いだろ。」
「えー…」

俺の視線の先、ウォーリアと話すフリオニールを見遣り、ジタンはもう一度、えーと呟いた。

フリオニールは格好良い。
あの根元まで完璧にムラの無い銀色な髪はまるで彼の高潔な意思のようだし、琥珀色の瞳は希望に輝いて宝石みたいだ。身長も高く男らしく、おまけに優しいときた。これ程のいい男がいったい何処にいるんだ。

「なんであんな格好良いんスか…」
「目付きヤバいぞお前。」
「黙れフリオニールの素晴らしさが分からん凡人。」

胡乱げな目をしたジタンは、深々と溜め息を吐いて「凡人でいいよ、俺は。」と疲れた声で言った。そのままテーブルの上に上半身をダラリと乗せて、俺のコップに手を伸ばす。見ればジタンのコップはとっくに半分溶けた氷だけになっていた。対して俺のコップにはまだなみなみとアイスティーが残っている。疲れが取れるのだとティナが調合してくれたハーブティーだが、フリオニールに見とれて飲むのを忘れていた。ジタンは一口含んで、「水っぽい」と呟くと再びコップを俺の手元に戻した。

「何で俺女に生まれなかったかなぁー」
「なんだ、女だったら付き合えたのにってか?」
「いや女だったらさ、フリオニール優しいから。押し倒して乗っかって既成事実さえ作っちゃえば責任取ってもらえるだろ。」
「お前…」

そう言ったきり、ジタンは言葉を見つけられずに絶句した。目が如実に俺お前にドン引きしてますと物語っている。

「お前ちょっと危ないぞ。」
「でもフリオニールなら責任取ってくれると思うだろ?」
「まぁ…うーん…」

そうかも、と首を捻るジタンを見て笑う。ちょっと小動物みたいだ。

「お前そういう意味でフリオニール好きなワケ?」
「そういう意味って?」
「イヤラシイ事したいのかって意味。」

言われて、少し悩む。そりゃあしてくれるって言うんなら喜んでお願いしたいが、俺はスポーツ選手だ。やたら負担がかかるという男同士のそういった行為はあまり宜しくない。かと言ってフリオニールにシて貰う手前、受け身をやってくれなんて我が儘も言い辛い。結論から言うと、ブリッツを犠牲にしてまでヤりたいわけでは無い、というのが本音だった。

「まぁしたいっちゃしたいけと、そういうんじゃ無くてこう…見てたい?みたいな。」
「見てたい?」
「そう、近くで見たい。誰よりも近くで、ずっと見てたい。」

ジタンは意味が分からないと言うように、肩をすくめて見せた。
何て言うのかな。女になって既成事実が欲しいのは、そうすれば一生隣にいる権利が手に入るからだ。男の身では例え既成事実を作ったってそこまでの物は手に入らない。だから別にしなくてもいい。

「フリオニールが欲しいんじゃ無くてさ、フリオニールが幸せになるのを見たいんだ。」
「………。」
「だから別に恋人とかに…なれるならなりたいけどさ、別になれなくても良いワケで…えーとつまり…近くにいた方が、よく見えるだろ?」

ヘラリと笑いかければジタンはじっと見ていた俺から視線を外し、腕に顔を埋めて小さな声で「難儀なヤツだな、お前も。」と言った。お前もって事は他にも誰かいるのだろうか。兄のクジャか、それとも仲間であるクラウドかスコールの事か。もしかしたらジタン自身の事かもしれないが、触れずにおいた。

「なんでフリオニールなワケ?」
「んー?」
「そこまで拘るんだ、理由あんだろ。」

腕に顎を乗せたまま喋るジタンは子供みたいだ。さっきからジタンに失礼な想像ばかりしている。

「フリオニールはさ、格好良いんスよ。」
「そりゃもう聞いた。」
「そうじゃ無くて、」

銀の髪と琥珀の瞳の青年。逞しい体と高い身長。優しい心をした仲間を守る義士。高潔な夢とそれを叶えるための力を持っていて、彼の未来には輝く希望に満ちている。
お伽話の勇者みたいだ。

「俺に無いもの、俺の欲しかったものを全部持ってるんだ。」

俺の憧れで構成されたフリオニールが夢を叶えて幸せになって老いて死ぬ所を、俺は見たいんだよ。
ジタンは黙ったまま視線をフリオニールに移す。バッツと笑い合う姿を視界に納め、再び「本当に難儀なヤツだよ、お前は。」と零した。

「ならお前もうちょっと表現考えろよ。」
「えー、どうゆう?」
「信頼とか友情とかそっち方面にさぁ。」
「俺、フリオニールとならカオスだって怖くないっス!みたいな?」
「そうそう。」

ホモだと思われたくは無いだろ?とジタンは言う。そりゃあここが女の子だらけなら考えるが、ここにはほぼ男しかいないし。

「俺フリオニールさえオッケーならむしろお願いしたいくらいだしなー。」
「何がとは聞かねーぞ、言うなよ聞きたくない!」

ジタンが大袈裟に耳を塞いで騒ぐ。何だよ、さっきは自分から聞いてきたくせに。ジタンの大声に、フリオニールがこちらを振り向いた。

「あっ、フリオニールがこっち見た!ジタンよくやった!」
「黙れホモ野郎!あぁくそ、女の子が少な過ぎるせいだ何もかも…」
「フリオニールー!!」
「呼ぶなよ!」

大きく手を振れば、フリオニールも振り替えして近付いてくる。フリオニールが笑顔だと、訳もなく嬉しくなる。幸せになって欲しいんだ、誰よりも。

俺に無いものばかり、俺の欲しかったものばかり持った俺の勇者。親父とは真逆の薄い色の髪も、誰にも負けない強さも、仲間を思いやる心も、確実にやってくる未来も、全て俺にあったならと考えた事もある。でも、多分俺はフリオニールほどそれを上手く使えない。

フリオニールがフリオニールのままで幸せを手に入れるのを、ただ近くで見たいんだ。





2011/01/27 04:17
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