「俺さ…好きな人ができたっス。」

ガシャンッ、と剣が鳴った。動揺を隠すように咳ばらいをして、ティーダを見る。

「今…何て言ったんだ?」

しまった、声が震えた。待て、落ち着け俺。大人の余裕を見せるんだ。ティーダと1歳しか変わらないけど。

「だからフリオニール、好きな人が出来たんだって。」

「す、好き、な人?」

ダメだ。手まで震えてきた。チラリと見回しても、他の3人に動揺は見られない。落ち着くんだ俺。可愛いティーダが衝撃の告白をしたからって、ここで動揺を見せたらこの想いが皆にバレてしまう。クラウドもスコールも見慣れた無表情だ。だがバッツは普段の騒がしさが嘘のように凪いだ目をしていた。

うららかな午後だった。
俺達は5人で車座になり、穏やかに話しをしていた筈だ。少なくともティーダが「そういえばさ、」と言い出すまでは和やかに時間が流れていた。ティーダがふざけ、バッツがそれに便乗して俺が宥める。それをクラウドとスコールが僅かに微笑みながら見つめる、そんないつもの風景だった。のに。

「分かってる、ティーダ。」

バッツの何時に無く穏やかな声に現実に引き戻される。そうだ、こう見えてバッツだって俺より年上なんだ。言ってやれ、バッツ!

「俺もティーダの事好きだからな!」

何を言ってるんだコイツは。俺だってティーダの事が好きなのに。いや待て、違う。そうじゃなくて、何でバッツは好きな相手が自分であること前提なんだ。一緒にいる時間の長さで言えば、俺の方が可能性は高い筈だ。いやだからそうじゃ無くて。え、バッツもティーダが好きなのか?
コトリ、とカップを置いて、クラウドが口を開いた。

「バッツ、ティーダはクールな男が好きなんだぞ。」

いつも通り静かな表情で、クラウドは続ける。

「クールな男、つまり俺。」

お前には興味無いねって何だソレは。お前も何を言ってるんだ。お前は本当にクラウドなのか?もうどうしたらいいのか分からない。頼みの綱とばかりに隣のスコールを見遣れば、スコールは俺と目を合わせて重々しく一つ、頷いた。元の世界では傭兵集団を率いていたというだけあって、頼りがいと自信が溢れるその表情にはさしもの俺も惚れてしまいそうだ。惚れないが。

「クールのカテゴリには俺も入っている筈だ。」

誰だスコールは頼りがいが有るとか言ったの。普段バッツとジタンに振り回されてるから苦労人のように思われがちだが、スコールだって大分と不思議ちゃんなんだ。それを忘れていた俺が馬鹿だった。
困惑を浮かべたティーダの視線と、俺の視線が交じり合う。
そうだ、戸惑っている場合じゃ無い。この子供を助けてやらなくては。俺は誓ったのだ、この子を守ると。どんな時でも輝きを失わない、太陽の化身のようなティーダの無邪気な笑顔を守り通すと。ティーダを困らせる、悲しませるありとあらゆる物から守る事が俺の使命であり生きがいであり生きる意味でありあとええと何だっけ…とにかくだ!今ティーダが困っているんだ!!俺が言ってやらなくでは!

「ティーダ、ティーダ大丈夫だからな、ティーダ。」
「フリオニール…」

そうだ、そうだ言ってやるんだ。縋るような瞳でこちらを見つめるティーダに、ええと、そうだ。

「ティーダは俺が1番好きだもんな!」

ああティーダ「コイツも狂ったか」とでも言うかのような、その冷たい瞳も可愛いよ。
画して戦いは始まったのである。



*****



思わぬ所にいたライバル達との話し合いは困難を極めた。ティーダが如何に可愛いかから始まり、どれだけ自分がティーダを愛しているか、今までティーダに言われた台詞、泣いているティーダを慰めた回数…話題は尽きない。最もティーダと行動を共にする俺から言わせれば、ティーダが好きな相手は俺しかいないのだが、誰一人として譲らない。

「大体、クール系は二人も要らないだろう。」
「良いこと言うなー、フリオニール。クラウドとスコール、どっちか退場しろよ。」
「…なら年功序列でスコールが退場だな。」
「待て、ティーダと同い年は俺だけだ。兄貴分という立場が被ってるフリオニールとクラウドこそどちらか立ち去るべきだ。」

正直スコールがこんなにも喋る所を初めて見た。何だ普通に喋れるんじゃないか。だがそんな事はどうでも良い。
火花の幻覚まで見えそうなほど張り詰めた空気の中、対峙する俺達は今までに無い程険しい表情を浮かべていた。無理も無い。もう2時間もこの状態が続いている。当のティーダはと言うと、開始早々に逃げだそうとした為、俺とスコールに両脇を固められている。
まったく、お前に相応しい男を決める為の戦いだと言うのに。

ふと気付く。事の発端は何だったか。何で俺達は秘めたる想いを爆発させてまでティーダに相応しい男を…

「え、な、何スかフリオニール。終わったんスか?」
「いや…。」

ティーダの顔をじっと眺めながら考える。突然黙った俺の視線の先に気付いて、他の3人もティーダを見つめる。見詰められてうろたえる所も可愛いな。ん?ちょっと疲れた顔をしているな。

「…それで、好きな男と言うのは誰なんだ、ティーダ。」
「あ、」

そういえばそうだった。
クラウドの冷静な言葉に当初の目的をようやく思い出す。そうだ、ティーダは好きな人が出来たと言ったのだ。

「ティーダ、俺が好きだってこの石頭共に言ってやれ!」

バッツが勢い良くティーダに言う。だから何でバッツは自分がティーダの思い人だと信じ込めるんだ。

「…ティーダが好きなのは俺だ。」
「いや、ティーダ、俺だろう?」

クラウドとスコールに詰め寄られ、ティーダは僅かに身を引いた。「えーっと、えー…」と呟き困惑しているが、今は助けてやることは出来ない。
振り返って逃げられないように背中側を固めティーダの両肩に手を置けば、面白いようにその肩が震えた。恐る恐るといったように振り返るティーダが怯えないように、優しく微笑んでやる。


「で、誰なんだ?ティーダ。」

ウロウロと視線をさ迷わせた後、ティーダは漸く口を開いた。その口が自分の名を告げるのを、今か今かと待つ。

「えっと…あのー、えー…おや…じ…かな…?」



俺達は走った。手に手に武器を構え、カオス軍の陣地へと。
今ならカオスとて一撃で沈められる気がしていた。



*****



「よー、ティーダ、どうだったぁ?」

4人の走り去った方角をぼんやりと見詰めていれば、全ての元凶たるジタンが近付いてきた。いつものように悪戯好きな笑みを浮かべている。

「ジタン…」
「ん?ドッキリ上手くいったか?あいつらなんて?」

そう、ドッキリだったのだ。小さな賭けに負けた俺は、あの4人に向けて交際宣言をするはずだった。アルティミシアとの。何故アルティミシアかと言うと、本人に確かめようが無いからだ。それに、すぐ嘘だとバラすつもりでもあった。

「俺さ…」
「ん?」
「親父、嫌いなんスよ。」
「ああ、知ってるけど。」
「でもさ、」

疑問符を浮かべるジタンをチラリと見て、再び4人が去った方角を見遣る。あの方角には、カオス軍が駐留していたはずだ。

「今だけ、ちょっと、謝りたいっス…」

今頃4人がかりでボコられているだろう親父を思う。そのまま踵を返して、自陣へと足を向けた。ジタンはドッキリの結果を聞いてくるが、俺はもう疲れた。今日はもう寝よう。

とゆうか、今気付いたけど、何で俺の好きな人が男であること前提なんだ。
嫌な予感は全て無かった事にして、俺はテントに入ると横になった。
親父は…まぁ、親父だし、強いし、親父だし、まぁいっか。

でも一応、今度会ったらちょっと優しくしてやろう。



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2011/01/21 23:36
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