本当に臆病だなぁ、と思う。誰がって、クラウドとティーダだ。外から見るとこんなに解りやすいのに、二人とも全く気付かない。それもこれも、全て二人が必要以上に臆病なせいだ。あと一歩を踏み出せばいいのに。
あぁもう、じれったいのなんのって。

両手が塞がったティーダの靴紐を、クラウドが結び直してやっている。自分の足元に膝を付くクラウドを見るティーダの瞳は、まるで年頃の娘のようだ。好きな人が自分の為に何かをしてくれる事が例えようも無く幸せなのだと、緩んだ頬や熱心な眼差しが物語っている。
好きって言っちゃえば良いのに。その先に待つのは二人が望む通りの最良の未来なのに。靴紐みたいな小さな幸せじゃなくて、もっとずっと大きな幸せが君達の間にはあるのだと言ってしまいたいけれど、そんな訳にもいかない。これは僕が教えるんじゃなくて、二人が自分で気付かなくてはいけない事なのだから。

「ありがと、クラウド。」
「いや、いい。」

靴紐を結び終わったクラウドが立ち上がり、ティーダに預けていた剣を受け取った。はにかんで礼を言うティーダに、僅かに目を細めてクラウドは答える。その微笑みは愛しさが溢れたようにも、切なさを堪えたようにも見えた。それを見て、ティーダの笑みはいっそう深くなる。
ほら、ティーダの反応はそんなにも分かりやすいじゃない。君がほんの少し表情を変えるだけでそんなに喜ぶんだよ。何で都合のいいように理解しないんだい。ティーダもティーダだ。普通は自分の剣を相手に持たせてまで靴紐を結んではやらない。自惚れてしまえばいいのに、二人とも。最悪の未来なんて考えるだけ無駄だ。

「じゃあ、俺とクラウドは向こうだな。集合場所はここでいいか?」
「そうだね。僕とティーダはあっちだよ。」

フリオニールの言葉に頷けば、振り返ったティーダは僕に笑いかける。ほら、笑顔一つだってクラウドに向けるものと僕に向けるものではこんなにも違う。

「…じゃあ、また後でな。」

ティーダが僕に近付くのを見て、クラウドは振り返りフリオニールを伴い歩き始めた。その背中を見送ってふと隣に立つティーダを見れば、滅多に見ない真顔だ。視線の先には小さくなったクラウドの背中。その真摯な瞳に、思わず笑みが零れた。

「どうしたの?」
「え、あ、いや、なんでもないっス!」

今の質問はちょっといじわるだったかもしれない。思い出したように笑顔を浮かべたティーダは、くるりと振り返って今日僕達が回る予定のパンデモニウムへと足を向けた。本当は一緒に行きたかったんだろうな。後を追いながら思う。ああもう、なんて可愛いんだい君達は!



*****



目当ての素材は、何ともあっさり手に入った。今日中には見つからない事も覚悟していたのに、最初に戦闘したイミテーションが持っていたのだ。当然集合場所に戻ってみてもあとの二人がいる筈もなく、時間を持て余してしまった。
手頃な岩にティーダと並んで座り、ぼんやりと二人が来る筈の方向を眺める。

「あのさ、セシルさ、」

ティーダがボソボソとした声で話しはじめた。俯いた横顔は耳まで赤く染まって、茹で上がったようだ。

「なんだい?」

暫く言葉を止めて逡巡していたが、僕が聞き返したことで勇気を出したのかティーダは一つ大きく息を吸う。

「あの、もしかして、気付いてる?」

それでも搾り出された声は掠れてか細く、彼の想いや恥じらいを感じさせた。
それ以上の、核心に迫る部分は口には出せなかったようだ。それっきり黙ってしまったティーダをいじめることは出来なくて、彼の顔をそっと覗き込む。

「…クラウドが好きなこと?」
「えぁっ!」

自分から言ったくせに、ティーダは驚いたように変な声を出して勢い良く顔を上げた。僕の顔を見て真っ赤な頬を両手で隠し目をさ迷わせた後、再び俯く。今度は立てた膝に顔を埋めてしまう。真っ赤な顔は見えなくなったけど、赤い首は見えてる。

「何で知ってるっスかぁ…」

さっきよりも小さな声が僅かに湿っている。恥ずかしさで涙目になっているのが容易に想像できた。

「見てれば分かるよ。」

ティーダはますます膝に顔を埋め、いやいやをするように頭を降る。その頭がピタリと止まり、恐る恐る上がった。目は見開かれ、先程とは打って変わって真っ青な顔だ。そのまま何かに怯えるように僕を見る。

「もしかして、じゃあ、まさか、クラウドも気付いてる?」

みるみるうちにティーダの瞳に涙が溜まっていく。

「どうしよう、俺、クラウドが、おれ…」

青かった顔は再び真っ赤に染まり、もうどうしていいか分からないというように視線をさ迷わせた。

「告白、しちゃえば?」
「そん、そんな!どうやって!」
「簡単だよ。好きですって、言えばいいんだ。」

好きという言葉に反応して、ティーダの顔はますます赤くなる。あんまり赤いもんだから、熱でも出すんじゃないかと心配になった。

「いや、でも、でもさ…」
「なんだい?」
「だって、戦いの最中にそんなこと、クラウドの負担になりたくないし、軽蔑されたくない。それに、」
「それに?」
「フラれたら気まずくなるし、それぐらいなら俺、今のままがいい…」

なんて健気なんだろう。そして何て可愛いんだろう。湯気でも出そうな顔を再び膝に埋めて、ティーダは体を縮こまらせる。こんなにも純粋に恋をする年下の仲間に、ますます言ってしまいたい気持ちは募る。クラウドは君が好きなんだよ。何よりも誰よりも好きなんだよ。たった一言伝えるだけで、君の望みは全て叶うのに!
でもそれを僕の口から伝える事は出来なくて、変わりに独特の色を持つティーダの髪をそっと撫でた。

近付いてくる二つの気配。ティーダはガバッと顔を上げると、僕の手を握った。

「セシル、誰にも言っちゃダメだからな!お願い、皆には秘密にしてて!」
「分かってる、大丈夫だよ。」

微笑んで頷き返せば、ティーダは安心したように息をつきようやく僅かに笑みを見せてくれた。

「いつでも相談してね。僕はティーダの味方だよ。」

ティーダの笑みが顔一杯に広がる。照れたように頷いた後、立ち上がったティーダはもう随分と近くなったクラウドとフリオニールに向かって駆け出した。その途中、思い出したように振り返り、大きく手を振った。

「セシルありがとうな!大好き!」

ああもう!
必死に笑いを堪えて手を振り返せば、僕を睨む目線。そんなに睨んだって、どうにもならないよ。君が一歩を踏み出さないからじゃないか。意地が悪そうに見えるようにクラウドに笑いかけ、僕もティーダの後を追って二人の方へ歩き出した。
あぁもう早くくっついちゃえば良いのに、じれったいのなんのって!





2011/01/21 22:25
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