プライドだとか色んなものを無視して客観的に言ってしまうと、正直な所クラウドには敵わないと思っている。
何がって、顔が。

そう言ったら、隣で剣の手入れをしていたウォーリアは、微妙な間の後「…そうか。」と呟いた。

「って事があったんスよ。」

「何故それを私に言うのですか。」

「女性の意見が聞きたくてさぁ。」

月の渓谷で座っていたら、どこからかアルティミシアがやって来て魔法を撃ってきた。本気でやり合う気は無かったのかイマイチ勢いに欠けるそれを避け、「相談があるんだけど、」と切り出せば、問答無用で攻撃してくるかと思ったアルティミシアは意外とあっさり隣に座った。
で、冒頭に至る。

「ティナはそういう話あんま得意じゃ無さそうだしさ、暗闇の雲は興味自体無いかなって。」

「…女神にすれば良いでは無いですか。」

「したらティーダは十分可愛いですよって。」

そういうんじゃないんスよねー、と言えば、アルティミシアは溜め息を一つ吐いた。

「何故兵士と比べるのです。」

「セシルは格好良いって言うより美人だろ。イケメン代表って言ったらクラウドじゃないっスか?」

「そう…ですね。」

「てゆうかさ、俺コスモス軍の中だと結構順位下っスよね。顔の。」

「…方向性が違うのでしょう。」

どうやらさっきの溜め息は諦めを含んだものだったらしい。カオスの中でなら面倒見が良い方だろうアルティミシアは、俺の顔をしげしげと眺めて分析を始めた。

「ホウコウセイ?」

「貴方の顔も若い娘にとって魅力的な部類には入るでしょうが、どちらかと言えば健康的な生気に溢れた魅力ですからね。」

「成る程。コスモスは皆キラキラ王子様系っスもんね。」

そうです。と頷いたアルティミシアの横顔を見る。年齢は読み取れないが、美人だ。遥かに年上にも見えるし、実は年下だと言われても納得してしまいそうな不思議な顔。

「貴方と似た系統なのは、クジャの弟や物真似師ではないですか。」

魅入られるように見ていたのが、アルティミシアの言葉で現実に引き戻される。

「え、ああ、ジタンかバッツか…。
そん中じゃ俺1番イケメンじゃないっスか?」

アルティミシアは俺の顔をまじまじと眺めた後、また溜め息を吐いた。今度のは分かる。呆れた溜め息だ。

「何スか。」

「いいえ。まあそう思いたいなら思っていなさい。」

言い方に不満は残るが、まぁいい。これで話しは終わったように思えた。アルティミシアと会話する機会なんて滅多に無いから、このまま立ち去るのはちょっと惜しい気もする。何と言って引き留めようか、下手な話題では攻撃が返ってくるだけだ。そう考えていたら意外にもアルティミシアの方から話を振ってきた。

「大体、光の勇者にそのような事を言うのが間違いなのです。」

あの者がそのような事が分かるとは思えませんが。そう言ってアルティミシアはまた溜め息を吐いた。

「だってそこにウォーリアしかいなかったんスよ。」

若干拗ねた口調になってしまった。だからいつまで経っても子供扱いされるんだって分かってるけど。
馬鹿にしたような笑いを予想して少しだけ顔を上げると、そこにあったのは見たことも無い穏やかな笑顔だった。ずっと昔に見たことが有る。母さんに似た微笑み。

「それが貴方の強さなのでしょうね。」

笑顔に見取れているうちに、隣に座るアルティミシアは少しだけ俺に体を寄せた。細い腕がそっと俺の額にかかった髪を梳き、あらわになった額に口づける。落ち着いた低い声が耳に届く。

「時を止めたくなったらいつでもいらっしゃい。」

その時初めて、魔女にも体温が有るのだと知った。まるで慈しまれているようだ。魔女の子供に生まれていたら、こんな風に愛して貰えたのだろうか。そう思ってしまう程に優しく、もう一度髪を梳くとアルティミシアは立ち上がった。行ってしまう、何か言わなくては。

「あ、い、いつもそうやって笑ってた方がいいっスよ!」

慌てて立ち上がった俺の口から飛び出たのは、そんなマヌケな言葉だった。ダメじゃん俺。僅かに目を細めてこちらを見るアルティミシアに、引っ込みが付かなくてそのまま続ける。

「あの、美人だしさ…笑ってた方が、いいっスよ…。」

何とか捻り出したのは、やっぱり下手なナンパみたいになった。もうどうフォローしていいかも分からない。オロオロと視線をさ迷わせる俺に、やっぱりアルティミシアは溜め息を吐く。このたった数十分だけで、何回溜め息を吐かせてしまったんだろう。
再びアルティミシアの手が持ち上がる。赤い剣が襲ってくるのだろうか。衝撃に備えて体を固くした俺の予想に反して、暖かい手は俺の頬を撫でただけで離れていった。魔女の口許に一瞬さっきみたいな優しい笑みが現れて直ぐに消える。

「もう行きなさい。」

「え?」

「過保護ですね。」

そう言ったきり、アルティミシアはまるで何事も無かったかのように背を向けて立ち去った。
決して振り返らないその背中が視界から消えるまで見送って、俺も反対へと歩き始める。20メートルも進まないうちに、アルティミシアが残した言葉の意味が分かった。

「ティーダ!」

遠くから名前を呼びこちらに走ってくるよく知った影に、足を速める。

「ティーダ、探したんだぞ。」

「フリオニール。」

「心配するから一人でどこかに行くなっていつも…、どうしたんだ?」

「え?」

「何か嬉しそうな顔してるな。」

「そうっスか?」

そんなつもりは無かったんだけど。左手をアルティミシアが撫でた頬に当てる。顔がニヤける。



誰も知らない。
魔女の体温を、俺だけが知ってる。





2010/12/16 21:20
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