女神に「戦え」と言われ、ティーダの胸に最初に去来したのは「困ったな」という感情だった。
父と戦う事が、では無い。他の仲間達同様、ここにやってくる前にも戦った相手だ。もちろん再び剣を交える事になるとは露ほども思っていなかったが、決着を付ける事に異議があろう筈も無い。
ティーダが困ったと思ったのは、戦う事自体に対してだった。
周囲では仲間達が自らの宿敵や自分の得意とする戦法、武器についてを話している。どうやら仲間は全員戦闘に長けているらしい。もしかしたら戦う事が生きる事と密接に関わった世界だったのかもしれない。戦闘に精通していないのは自分だけのようだ。そう考えて、会話に入れずポツンと佇んでいたティーダは、更に気が退け輪に入り辛くなる。そもそもティーダはやむを得ない事情により剣を持ったと言えど、本職はスポーツ選手である。剣はあまり好きでは無かったし、戦闘に関する専門的な知識も無い。しかしそんな事を言っては皆の顰蹙を買うのではないかと、結局何も言えぬままに立っていた。そんな様子に気が付き話し掛けてきたのは1番幼い少年だった。

「どうしたのさ?さっきから考え込んでるみたいだけど。」

「オニオン。いや、ちょっと。」

「ふぅん。何でも無いならいいけどさ。
ところで、ティーダはどんな戦い方が得意なの?」

来た、と思った。オニオンナイトの口から飛び出したのは、ティーダが今1番されたくない、されても答え方が分からない質問だった。

「それなんスけど…。」

伝えるのに適した言葉を見つけられずに、うーん、と詰まるティーダを見て、オニオンナイトは怪訝そうに首を傾げる。オニオンナイトにしてみれば、歴戦の勇者達が集うこの場所で自分の戦闘スタイルすら説明出来ない者がいるなど、想像も出来なかったのだ。当然、ティーダが言葉に詰まった理由も話せないのでは無く話したくないからだと理解をした。

「何?もしかして、戦闘スタイルは隠す派?」

「いや、そうじゃ無いんスけど…。」

「ここの皆は仲間なんだしさ、連携の為にも教えてよ。」

「うーん…」

もう一度唸って空を仰ぎ、ティーダは決心したようにオニオンナイトを見下ろした。

「剣を持って、」

「へ?」

「走って、」

「ティーダ?」

「切るっス。」

「何言ってるの?」

「そうやって戦うんスよ、俺。」

オニオンナイトはポカンと自分より高い所にある顔を眺めた後、我に返って苦笑いをした。

「そんな事分かってるよ。そうじゃ無くてさ、」

そこまで言って、見上げたティーダが心底困ったという顔で所在無さげに視線をさ迷わせているのに気付く。それはいっそ憐れみを覚える程で、幼いオニオンナイトにすら何とか助けてやらなければと思わせるのに十分だった。

「どうしたの?」

年下のオニオンナイトに気を遣われたのに気付いたのか、ティーダはますます眉尻を下げ、口をつぐむ。そうするとオニオンナイトはまるで自分が兄になったかのような気がして、この大きな弟を困らせる原因を知ろうと優しく手を握ってやった。
小さな手の温かさに幾分か励まされ、ティーダは漸く口を開く。その内容は、戦う事を生業としてきたオニオンナイトを唖然とさせた。

「戦闘とか…よく分かんないス。」

「え?」

「俺、戦士じゃないし。」

告げられた内容にポカンと口を開けてティーダの顔を見るが、その瞳は嘘を言っているようには見えない。

「じゃあティーダは…何なの?」

何でここにいるの?という質問は、寸での所で飲み込んだ。その答えはきっとティーダが1番欲しがっている。そう思い至れる程度には、オニオンナイトは成熟した子供だった。

「スポーツ選手なんスよ、俺。」

ブリッツって言う、水中でやる球技の。
その説明に、オニオンナイトの困惑は深まるばかりだ。球を追って的に入れる。そのような遊びで生計を立てているなど到底理解出来無かった。だが目の前にいる彼と自分では生きてきた世界そのものが違うのだ。そういう事も有るのだろうと自らを納得させ、オニオンナイトは努めて柔らかい声を出した。決してティーダが劣等感など抱かないように。

「剣を握るのは初めてじゃあ無いんだよね?」

「うん。結構得意だった。」

「成る程…。魔法は?」

「使え…たけど、今は使えないみたいっス。」

子供にするように簡単な質問を繰り返し、少しずつ情報を引き出してゆく。そうしてティーダが得意とするものは分かったが、連携や武器を扱うクセは実際に見てみないと分からない。それは追い追い考えようという事になり漸く一息をついた時、ふと思い立ってオニオンナイトは閉じた口を再び開いた。

「ティーダ、大丈夫だよ。」

「え?」

「ボク誰にも言わないから。安心しなよ。」

キョトン、と形容するに相応しい間の抜けた顔を眺め、微笑みと共にもう一度、さっきより優しい声で。

「ティーダは戦士じゃなくてもちゃんと仲間だし、ボクはティーダが戦うのあんまり好きじゃないって誰にも言わないから。大丈夫だよ。」

途端にティーダの顔が紅く染まる。少年に自分の懸念や心配を全て見透かされたのが恥ずかしくて、思わず片手で顔を覆って座り込むと、先程とは逆転してティーダを見下ろす形になったオニオンナイトは漸く届いた頭をそっと撫でた。

「なんで分かったんスか…。」

「そりゃあ分かるさ。」

お兄ちゃんだからね。とは、流石に可哀相なので黙っていてやる事にした。そんなにもからかっては泣いてしまうかもしれない。
その代わりに、繋いだままの手を少しだけ強く繋ぎ直す。ボクが守ってあげる、と伝わるように。オニオンナイトの顔には、常の大人びた笑顔の代わりに子供らしい、だが暖かい微笑みが浮かんでいた。



*****

※それからしばらくして。



「何だ何だ?珍しい組み合わせだな。」

「そうでも無いよ。」

話し掛けて来たジタンに返して、ボクと背中合わせに座ったティーダを首を捩って見上げる。ねぇ?と聞けば、ティーダはチラリとこちらを見た後、悪戯を企むみたいにニッと笑ってジタンに答えた。

「そっスねー。そんな珍しくも無いっスよ。」

「そうかぁ?」

怪訝そうな顔をしたジタンだが、すぐにニヤニヤと笑ってボクの横に膝を付く。

「何だよ玉ねぎ坊や、俺にはツンツンなのにティーダにだけ懐くなんて、」

俺悲しー、とふざけるジタンを一睨みして、後は無視をする。相手にすると調子に乗るのを学んだのは、結構早い段階だ。
思った通り、しばらく無視をすれば飽きたらしいジタンはティーダに二言三言掛けてバッツの方へと行ってしまった。
くくくっと耐え切れ無かったらしいくぐもった笑い声が背後から聞こえる。それに釣られるようにボクも笑った。

懐いたのはティーダの方だよ。なんて、勿体ないから教えてやらない。





2010/12/09 21:19
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