男が9人もいるとさ、やっぱそういう話も出るわけよ。ね、分かるっしょ?
だってさ逆によ、逆に。男9人で毎日天気の話とかしてたらキモいっしょ。ヤバいっしょ。
だからさ、俺らのコレは男として健全な証拠ってわけ。
「ファーストキス?」
「そ、ファーストキス!お前いつだった?」
「ファーストキスって、また甘酸っぱい響きっスね。」
似合わねー、と笑えば、話を振ってきたジタンはニヤニヤとしながら小突いてきた。
「んでいつよ?ん?」
「いつ…いつだったかな…、10歳くらいか?」
「お、その反応からすると結構遊んでたな?」
「ふっへっへ」
本格的に隣に座り込んだジタンに、武器を整備していた手を一旦止める。一区切りついた所だし、今日は他にすることがあるわけでも無い。
「相手は?可愛かった?」
「えー、どうだったかなー。あー…金髪だったような…」
「ティーダお前曖昧すぎだろー。ファーストキスっつったらもっとこうさー。」
「いいじゃないっスか別に…。てゆうかジタンはいつなんスか?」
「お、俺か?俺のファーストキスはなー、」
俺の問い掛けにジタンは一層笑みを深めると、両手を広げて今にも語りだそうとする。しかし甘いな、聞いてるのはそれじゃ無い。
「いや、初体験。」
「ちょ、お前直球!」
ゴホゴホと咳込んで、ジタンは大きな笑い声を上げた。さっきのジタンにも負けないくらいのニヤニヤ笑いで見つめれば、ジタンもニマニマといやらしく笑う。
「どーせそっちにいくんなら、最初っからいくっスよ。」
「まぁ間違っちゃいねぇな。
よっし聞くがいい俺の武勇伝を。あれは俺が花も恥じらう紅顔の美少年だったころ―――」
紅顔ってガラかよ。そう笑う俺の背後から聞こえてきた声の持ち主が、この場に最も来ちゃいけない人の声だったと知るのはもうちょっと後のことだ。この時に気付いて止めておけば、あんな悲劇は起きなかったっスよ…。
「お、楽しそうだな。何の話だ?」
「あ、フリオニール!」
「おー、丁度良かった。」
「ん、どうした?」
俺の横に座るフリオニール。ジタンと俺は顔を見合わせると、目で合図を送り合う。兄貴面して余裕の笑みを浮かべてられんのも今のうちだ。潔癖そうなこの男が女の子をどう口説くのか、ぶっちゃけすごい興味がある。やっぱバラ差し出しながら「お嬢さん…」とか言っちゃうんスかね。顔は綺麗だし男らしいし、そんなことしても様になりそうなのが若干悔しい気もする。
「お前、初体験っていつよ?」
「初体験?」
最初はきょとんと見返していたフリオニールだが、ジタンのニヤけ顔を見ているうちに意味が分かったらしい。端正な顔がジワジワと赤く染まる。
「お、お前、ジタン!」
意外や意外。この反応はまだってことか?しかもキスもしたこと無さそうだ。モテそうなのに。
お前俺の保護者かよってくらいいつも率先して世話をやいてくる仲間の思ってもみない弱点に嬉しくなって、全力でからかおうとした時だった。
「フリオニールもしかして童て、」
「ジタン!ティーダはまだ子供なんだぞ!!」
…ん?
俺の聞き間違いか?
今、フリオニールは何て言った?
真っ赤な顔で、俺より年下のジタンに何て言ったんだ、俺と一歳しか変わらないこの男は?
空気が凍る。ジタンの笑顔も凍り付いてる。
「あー、フリオニール?俺一応ジタンより年上…」
「ティーダ!お前にはまだ早い!」
「あ、はい…。」
言わせても貰えなかった。
「ジタンも!そういう話はティーダには毒だからバッツにしなさい!」
「お、おう…。」
ジタンの顔も、明らかに引き攣っている。どうしよう、どうすればいいんだこの空気。
「じ、じゃあ俺はこの辺で!」
あ、ずるい。
走り去っていくジタンの向かう先には見慣れた茶髪。
そして残された俺とチェリー君。
「チェリ、じゃねえやフリオニール?」
話し掛ければ、一緒にジタンの行く先を見つめていたフリオニールはくるりとこちらを振り向いた。両手で肩を掴んでくる。
「いいか、ティーダ。」
「なん、スか?」
痛い。痛いよフリオニール。手が食い込んでるっス。でもそんな事を言える雰囲気じゃない。
「その、ああいった話に興味があるかもしれないが、お前にはまだ早い。分かるな?」
「え、あ、う、うん…?」
「よし、ティーダはいい子だ!さ、手入れの途中だったんだろう?続きをやってしまおう。」
「あ、うん…。」
爽やかに笑うフリオニール。まるで背後から響いてくるバッツとジタンの爆笑なんて聞こえないかのようだ。
てゆうか、俺はフリオニールの中で一体どんな位置にいるんスか。どんな存在なんスか。俺普通に17歳男子なんスけど。しかも結構バカな方の。
フリオニールにだけは絶対言えないな。夜のザナルカンドでのあれやこれやなど。ブリッツプレイヤーはとにかくモテるんだから仕方ないだろ。
でもそんな事はどうでもいい。今はただ、先日エロ体験談で一緒に盛り上がったバッツをどう口止めするか考えなくては。
2010/11/21 23:37