「じゃあジタンは盗賊だったんスね!」
「そういうこと。レディの心だって盗んでみせるぜぇ〜」

ティーダの言葉にふざけて返せば、賑やかな笑い声が上がった。
たき火を囲んで『ナカマ』たちが談笑している。今でこそ和やかな雰囲気だが、先程までこの場の空気は緊張と警戒を孕んでひどく張り詰めていた。



*****



目覚めて、目の前にいる奴らが仲間だと言うのは『知って』いた。だが、だからといって会って数時間の相手を、しかも明らかに戦闘慣れしている人間にそう易々と気を許せるはずも無い。
名前だけをそれぞれ告げた後は、ただ沈黙が広がる。輪になって座る10人の人間の間には、その警戒心を表すかのように微妙な隙間が開いていた。

男だらけの中の紅一点、先ほどティナと名乗った少女などはあからさまに不安そうな顔で俯いている。それを心配気に見つめるのは最年少のオニオンナイトだ。ティナとオニオンナイトの間には2人いるが、それには目もくれずティナを気にしている。

初恋かねぇ?
下世話な事を考えて、すぐにそれを頭の片隅に追いやる。からかうのは後でも…それこそ本当に打ち解けてからでも出来る。
できればレディの不安など手取り足取り、密着して肩を抱いて取り除いてやりたいが、今以上に警戒させるのは目に見えている。残念ながら今はこのむさ苦しい中に咲く一輪の花との語らいは我慢するしかないようだ。

チラリと今度は自分の両隣に目をやる。気付かれない程度に。俺を囲むのはこれまた対照的な二人だ。
右側は金髪の男。髪の色は自前じゃないのか根本だけ黒い。見たことのない形のボールを大事そうに抱えている。きっと明るく笑うのだろう。子犬みたいだ。
左にいる黒髪はやたらと陰気そうだ。ジットリした黒髪に眉間のでっかい傷、の上からさらに皺まで寄せて自分の手に握った変わった形の剣を睨むように見つめていた。その向こうの金髪のツンツン頭も黙りこくっている。それ以外のヤツらも特に話すでも無く初対面の仲間を観察していた。
それぞれに一足で隣の相手の間合いから出られる程度の距離を開けて座りながら。

そんなよそよそしい空気を最初に打破したのは右隣りの金髪、ティーダだった。

「とりあえず、自己紹介からっすね!」

子犬のようだと思った青い目を焚火の炎に煌めかせてグルッと見回す。それにすかさずノったのがティナとオニオンナイトの間に座った男のうちのティナ側、たしかバッツという名前の男、そして俺だ。

「自己紹介ならさっきしただろ〜?」
「そうじゃなくて、もっとこーほら!あるじゃないっスか!
「なんだぁ?好きな女の子のタイプでも言えってのか?」
「なーるほど!ちなみに俺はどんなレディでも大好きだぜ」
「違っ、違うっスよ!好きな食べ物とか…」
「食べ物ってガキかよ」
「食べ物かぁ〜俺は何でも食うなぁ〜。旅してると好き嫌いなんか出来ねぇし」

俺達の淀みない会話に、段々と回りの仲間たちも重かった口を開きはじめる。
ようやく円滑に回されるようになった会話。和み始めた空気の中、いつでも抜けるようにさりげなく手を触れさせていたダガーはいつの間にか斜め後ろに。陰気な男…スコールとは肩が触れ合うほどに近くなっていた。スコールの武器、ガンブレードというらしい変わった形の剣も俺のダガーと並んで仲良く後ろにいってしまっている。

ティーダも俺とは反対隣にいるリーダーの男の話を、武器をやたら持った戦士、フリオニールと両隣から取り囲むようにして聞いている。俺達と同様に、後ろにフリオニールの大量の武器が無造作に積み上げられて、その横にはリーダーの剣も置かれている。無口そうなリーダー相手でさえ、目をキラキラとさせて話し掛ける様は微笑ましくもあった。あれで年上ってんだから不思議な話だ。
ふと気付く。そんな光景の中でもティーダはやはり、歪なボールをそれはそれは大事そうに、まるで心の支えであるかのように腕に抱いたままだった。



あれ、そういや俺はこいつに仕事やら武器やら色々話して聞かせたのに、俺はティーダがどんな武器で戦うのかも、ましてやあのボールが一体何なのかさえ、聞いちゃいない。





2010/10/26 23:42
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