俺のボールの上で、オニオンがバランスを取っている。ティナが何秒乗ってられるか横で数えてて、それを俺は横向きに寝転んで眺めていた。夕飯も終わって穏やかな夜。イミテーションが襲ってくる気配も無い。ティナの間延びした声とオニオンが転びそうになって慌てる声を聞きながら、ごろんと仰向けになった。
ちょうど頭のてっぺんの方、真っ直ぐ頭の先に皆がいる。頭を上に無理矢理向けてるから逆さまになってるけど。バッツとジタンとスコールは楽しそうに喋ってるし、それ以外の年長者たちは集まって明日の作戦でも話し合っているのだろうか、真剣な顔だ。それらを一通り眺めて、頭はそのままに思ったことを口に出す。

「兄貴にすんならーぁ…フリオニールっスよねー。」

途端に「えぇー」という声と共に腹に衝撃。ぐぇって変な声が出た。見たらオニオンが俺を跨いで腹の上に乗っかっている。「出ちゃう、出ちゃうから。」という俺の声を無視して仲間を眺めたオニオンは、俺の顔をぐっと覗き込んで言った。

「ぜーったいセシルだね。ね、ティナもそう思うでしょ?」

問われたティナを二人で見る。ティナはちょっと迷ってから、恥ずかしそうに俯きがちに、でもハッキリと言い切った。

「わたしはバッツ…がいいな。」

今度こそ「えぇー」の大合唱。ティナ趣味悪いっすよー。とか言いながら、上半身を持ち上げる。オニオンは俺の体の傾斜に伴って、腹から膝に滑り落ちた。向かい合わせで膝に乗ったオニオンと顔を見合わせ、バッツは無いよなぁなんて再確認してるとティナも座ってた場所からじりじりと四つん這いで俺の横に到着した。3人寄り集まって、秘密会議の準備は万端だ。

「フリオニール、優しいっスよ。絶対甘やかしてくれる。」

「でもさぁ、フリオニールはちょっと口うるさいって。帰るの遅くなったりしたら。」

「迎えに来ちゃいそう、だね。」

「なるほど…。」

言われてみれば確かに。優しいが間違いなく過保護だろう。それに比べて、とオニオンが切り出した。

「セシルはさ、頼りになるし、強いし、いいじゃん。」

「あぁー、勉強教えてくれそう。みたいな?」

「そうそう。ティナはどう思う?」

「セシルは綺麗だし優しいけど…ちょっと完璧すぎるかも。」

………なるほど。確かに、セシルの弟になって比較なんてされようものならグレるな。綺麗で強くてかっこよくて優しいとか何処の王子様だよって感じだもんな。

「確かにね…。」

「盲点だったっス…。じゃあティナは何でバッツがいいんスか?」

ティナは少しだけ赤くなって、小さな声で囁いた。

「色んな所、連れてってくれそうだから…。」

「あぁー、遊びに行く時とかね。」

「手、引っ張ってくれそうでしょ?」

意外すぎるが、最も良いお兄ちゃんの称号がバッツに贈られそうになった時、考えこんでいたオニオンが口を開いた。

「でもさ、」

「ん?」

「バッツはきっと何処にでも連れてってくれるけど、かくれんぼの最中に忘れて帰っちゃうよ。」

どうしよう、物凄い納得。

「あぁ、日暮れまで隠れてて、泣きながら帰ったらバッツが家で飯食ってるパターンっスね…。」

「しかも自分だけ怒られるんだよ。」

「………すごく、有りそうね。」

秘密会議に沈黙が落ちる。

「じゃあ逆にさ、ウォーリアとかスコールとか他のメンバーは?」

俺の一言に、二人はまた考えだした。俺も考える。ウォーリアが兄貴だったらどうかな。クラウドが兄貴だったら…「ウォーリアはさ、」切り出したオニオンの言葉に、そちらに顔を向ける。答えの無い難問に向かう数学者のような顔で、オニオンは言った。

「面倒見もいいし、強いし、お兄ちゃんだったらきっと凄く頼りになるけど…」

そこで言葉を切って、俺の顔とティナの顔を交互に眺める。続く言葉はすごく重々しく告げられた。

「なんか、お兄ちゃんには、したくない。」

あぁなんだろう、理不尽なのに納得してしまう。うん、何か嫌だ。

「親戚とか、近所の兄ちゃんでいいっスよねー、ウォーリアは。」

「てゆうか、お父さ…。」

………。沈黙のあと、とりあえず無かったことにして次に行こう次に。ダメだ。考えちゃダメだ。それ以外考えられなくなるから考えちゃダメだ。

「次…クラウド?」

「そっスねー…。」

「クラウドかぁ…。」

悩む。何か…得に悪い理由も無いけど良い理由も無いってゆうか。

「無口っスもんねぇ。」

「悩み事抱えるタイプだし…。」

「でも寛大に見守ってくれそうだわ。」

「オトナノヨユウってやつっスか。」

「…お兄ちゃんに『大人の余裕』って必要?」

「………。」

「………次、スコールはどうっスか。」

ここから難易度は一気に上がる。年齢が近くなるから。俺なんか同い年だし。ティナやオニオンも、明らかな大人って感じの相手じゃないからか苦戦してるみたいだった。

「まぁ遊んではくれないよね。」

「話し掛けると壁とでも話していろって言われるんスね。俺泣いちゃう。」

「守ってはくれそうだけど…。」

危険が迫れば何が何でも守ってくれるだろう。でも、それ以外は放置だ。間違いない。嫌だ、俺達はお兄ちゃんに甘えたいんだ。

「じゃあ最後ジタン!」

「もれなくクジャがついてくるって考えただけで嫌だよ、ボクは。」

「セシルだってゴルベーザが付いてくるわよ?」

「ゴルベーザとクジャ比べちゃダメっスよ…」

どうなんだろ、ジタンかぁ。あぁでもさ、

「悪い遊び、いっぱい教えてくれそうっスよねぇ。」

「兄弟だけど、親友に近くなりそうね。」

「じゃあやっぱりジタンも無しかー。」

秘密会議は平行線のまま終了。結局、仲間の中で最もお兄ちゃんに相応しい人物は決まらなかった。

起き上がってた上半身をまたごろん、と倒す。オニオンは俺の膝から降りたと思ったら、寝転んで今度は膝に頭を乗せてきた。チラリとティナを見ると、何事か考えた後でやっぱり寝転んで、頭は俺の腹の上。夜もふけて、実はちょっと眠い。

「んー、じゃあカオスの奴らは?」

「えー、やだよ。皆変人じゃん。」

「ふふふ、」

ティナがクスクスと笑って、つられるように俺達も笑った。2人の笑い声が腹に響いてくすぐったい。眠さで視界も思考もふわふわする。そのまま3人で笑ってたら、遠くから、声。

「おい、そんな所で寝るんじゃない。」

「寝るのならテントに戻りなさい。」

「ほら起きろって。」

「テントまで運んでやろうかぁ?」

近付いてくる足音がいくつか。誰かが優しく手を引っ張る。

「どうしたの、楽しそうだね。」

「ほら、自分の足で立て。」

何とか自分の足に力を入れて、促されるままに誰かに手を引かれてテントまで歩く。

「ちゃんと一人で寝れるな?」

頭はだいぶほわほわしてたけど、凄く楽しくていっそう笑った。隣で誰かに背負われたオニオンも、同じように手を引かれたティナも笑っている。

なんか、なんだ、みんな兄ちゃんみたいだな。ますます楽しくなったけど、もう限界。そのまま意識は消えて、夢の中。


翌朝、顔を合わせたティナとオニオンと、昨夜を思い出して3人で笑った。





2010/11/13 17:51
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