必死で作った砂の城を波に壊されては、また次の波が来る前に必死に城を作る。波が必ず来る事は知っていて、でもその場所しかないからまた波打際に城を作る。
そんな世界だった。俺が救ったのは。
どんな話の流れだったか、皆でたき火を囲んでいた夕飯時に自分の世界の話になった。
魔女が世界を支配しようとしていただとか、星の命を守るだとかいう話の中で当然俺にも順番は回ってきて、俺はただ、眠らない街の話しをした。
死の螺旋の話しは、聞いててもあまり楽しく無いだろうし。
明かりが絶えない、眠らない街ザナルカンド。
巨大なスフィアプールに街頭テレビ。生まれてから17年生きた俺の故郷、夢の街。こうやって話してると気付く。聞いてて楽しくないからスピラの事を話さないんじゃない。俺は、みんなに話せるほどスピラの事を知らないんだ。急げるだけ急いで駆け抜けた世界、好きな子の使命が死に繋がっていた。それぐらいしか俺は知らない。
*****
「ねぇ、ティーダはなんで戦ったのさ?」
こないだ皆でそれぞれの世界の話をした。戦った理由とか、敵とか、大事な人とか、そんな話の中でティーダは生まれ故郷の話だけをした。スポーツ選手として活躍していたという、戦いの無い平和で発展した夢のような街。ボクには想像すら出来ないけど、楽しそうな世界。
夜寝るときにもう一度ティーダの世界を想像してみようとして、ティーダの話の中には剣を持った理由も、モンスターも、カオス軍にいるジェクトの事も出てこなかったことに気付いた。
朝、顔を洗うティーダを見かけた時にその夜のことをふと思い出してそれを聞いた。何の意図もない。純粋な疑問。ただそんなことを思ったなって気付いたから聞いてみただけ。
ティーダは一瞬ビックリした顔をして、次に笑ってボクの頭をなでた。
「わっちょっ、やめてよ子供じゃないんだから!」
「ははっ、オニオンそんなこと考えてたっスか。」
「もうっ、なんだよ!」
「うーれしいなぁ、オニオンがそんなに俺のこと知りたいなんて。」
そう笑って、ティーダはいきなりボクを抱き上げた。目線が一気に高くなる。ティーダの顔がグッと近くなって、海の色をした目が横に並んだ。
「うわぁっ!?やめてよ、バカにし…」
「オニオン。」
「…ティーダ?」
その目があんまり真剣だから、ボクも思わず黙る。いつも馬鹿なことやって笑ってる時とは比べものにならないぐらい真剣に、ティーダはボクの目を見ている。何か重大な事を、それこそ誰も知らない秘密を教えて貰えるんじゃないだろうか。仄かな期待と緊張で張り詰めた空気の中、ティーダはそっと口を開いた。
「オニオン。」
「…うん。」
「オニオン、男はいつだって愛のために戦うもんっスよ。」
「う、ん?」
あれ?そんな話だったっけ?
困惑しているボクを地面に降ろして、ティーダはもう一度ボクの頭を撫でた後、朝食の準備をするフリオニールの方へ行ってしまった。その後ろ姿を暫く眺めて、ようやく気付く。
からかわれた!!!!
走って、跳んで、オニオンもまだまだ子供っスね〜。なんてフリオニールに話してるティーダに飛び蹴りをかます。真面目に聞いたボクがバカだったよ!
なんで戦ったのか聞いた直後のティーダの笑顔はあんまり痛そうで、ボクはもしかして聞いちゃいけない事を聞いたのかと思ったのに。
すぐに伸びてきた手が、まるでボクの視線を遮るように少し乱暴に頭を撫でたから見えなくなったけど。次に顔を上げた時にはいつもの笑顔だったけど。
あの一瞬の大人が浮かべるみたいな笑顔が、瞼にこびりついて離れない。
*****
本当にビックリした。まさかオニオンに聞かれるとは思わなかった。俺より年下なのに、俺よりずっとしっかりした子供。でもたまに見せる無邪気な顔に、まだ子供なことを思い出させる、そんな子供。
いつもバカ騒ぎをする俺たちに冷めた視線を送っているオニオンからそんな質問がくるとは思わなくて、思わず苦笑してしまった。
気付かれたかな。気付かれただろうなぁ。あの子は聡い子だ。大人の何倍も。
悲しい思い出ばっかりじゃないんだ。優しくて、温かい思い出もちゃんとある。でも、あの世界の思い出はやっぱり痛みを伴って俺を襲う。
忘れてほしいな。
知らないでいてほしいな。
帰るべき場所も、行くべき場所も持たない痛みなんて。
砂の城にはあの子がいる。
その城を壊す波がある。
戦う理由なんて、そんなもんなんだよ。
2010/11/10 23:43