次目覚めるのは水の中だと根拠も無く思っていた。
いや違うな。根拠も無くってわけじゃない。根拠はあった。
俺だけの海を作ってくれるって言ったんだ。だから、次目覚めるのは水の中のはずだった。

目を開くと同時に上半身を勢い良く起こす。その勢いを殺さないようにして立ち上がって、俺に近付こうとしてたヤツから素早く距離を取った。
ここは俺だけの海じゃないらしい。
その証拠に、目の前にはどこのファンタジーかっていう鎧着た騎士みたいな銀髪の男が立っている。

「あんた、誰っスか。」

鎧なんて見たこと無い。スピラでも、ザナルカンドでも。
もしかして、また?って一瞬思って、そんなわけないって打ち消す。
ここは、きっと、スピラだ。自然に囲まれてる。機械が見当たらない。スピラに決まってる。きっと、スピラ。

「ごめん、驚かせてしまったかな?」

女の人みたいに綺麗な顔をしたその騎士は、優しい声音でそう言って微笑んだ。
そして俺は理解した。
ここはスピラじゃない。騎士からはシンに怯え日々を過ごす死の螺旋への憔悴も、ましてや永遠の平穏が訪れたことに対する安堵も感じられなかった。この騎士は、あの死を待つだけの世界の人々が須らく纏っていた絶望の気配を持っていない。
ここはスピラじゃないし、もちろんザナルカンドでも無い。
知らない場所。

またかよ。なぁ、またなのか。今度は何を救わせる気だ。
夢の故郷は消えた。大好きなあの子ごと、あの子の世界は解き放たれた。

もういいじゃないか。俺を海に帰して。
だって俺はもう守るものなんて何も無いよ。守るものは全てこの手の届かないところにあるんだ。そう自分で選択した。
俺は消えて、違うな、始めから夢だったんだから消えるっていうのは変だ。元通り無くなるんだ。
俺は元通り無くなって、幻光虫になって俺だけの海に帰るよ。

なぁ、頼むよ。
俺はもう一度消えたくなんて無いんだよ。





騎士が微笑みながら言う。

「僕らは仲間みたいだよ。これからよろしくね。僕はセシル。君は?」

俺は笑いながら言う。

「俺はティーダっス!よろしくな、セシル!」

お互い一定の距離は保ったままで。




せめて敵は親父じゃ無ければいいなぁ。
ぼんやり思った。





2010/10/24 02:52
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