02 take the bait
信じたくないと何度も繰り返しても、現実はそう簡単には変わらないわけで。
……というか、これは一体なんという。
どうやら自分は、某人気執事漫画の主人公になっているらしい。
朝起きて、あのあと問うたのは名前。
僕はシエルで、錫也はセバスチャン。
偶然にしてはあまりにも合致しすぎているのだ。名と、服装が。
右目に違和感。手を添えると、眼帯の感触。
鏡を見ると青い瞳、と群青を帯びた髪。
もとの『私』の面影はどこにもない。
だが性別は女のままのようだ。男装設定ということだろう。
そして、かくいう目の前の執事は黒髪紅目ではなく、普通に東月錫也のままである。
「本日のご予定は――」
セバスチャンの姿をした錫也の言葉を聞き流し、僕は机の上に頬杖をついてため息をついた。僕は、庶民が『社長椅子』と呼ぶような椅子に腰を下ろしているのだが、この椅子、本当に憎らしいほどに座り心地がいい。
後ろを振り返って、窓の外に広がる世界を見た。
今日も空は青いなあ。
「………………」
ふと、急に。
僕がシエルで、錫也がセバスチャンなら、フィニやメイリン、バルドは誰なのだろう。
疑問が浮かんだら即行動だ。
「ちょっと屋敷を見回ってくる」
「……はあ……?」
全く意味が判らない、というふうに首を傾げられた。
なんか妙に腹が立つな。
顔は錫也でも、仕草がセバスチャンだからか。
むっとしたが、とりあえず妙に彫りが凝っている豪勢な自室の扉を開け、廊下に出た。
なんと。
ピッカピカである。
端から端まで埃一つないのが、一目見ただけで分かった。
壁にかかっている絵画の額の隅や、電灯の装飾の隙間。指ですくってみても、塵すらなかった。
さすがはセバスチャン。
一人うんうんと頷いていると、
「ぼっちゃああああああん!!」
これは幻覚だろうかそうだよね幻覚だ幻聴だ。
髪は赤いまま……だがピンで前髪を留め、長靴に麦わら帽子……。
どだだだだだあああああと、ものすごい遠くからものすごいスピードで走ってくる(オプション:涙)その姿は……あはは。
…………誰だ。
羊だ。
「ふぐえぉッ!」
今盛大にタックルを食らった。
あの、フィニかっこ羊かっことじのタックルを、だ。
死ぬ!死ぬから!
かろうじて生きてるけど!!
「フィ……ニ……きっさっまあああああ!!」
本当に痛かったんだぞ!!
と怒鳴るとしゅんとあほ毛が垂れた。
「ご、ごめんなさい坊ちゃん……」
こ れ は だ れ だ 。
調子が大いに狂うのだが。
なぜって考えても見ろ?
基本的に月子以外にはクールで毒舌っぽいキャラで通ってる羊がだぞ?
アリエナイアリエナイ。
世界はついに滅亡するのか……。
「あーもういい。……で?今度は何があった?」
どうせ庭を改造しようとして、失敗したのだろう。
そんな予測を立てながら、穏やかな太陽の光の下、僕はフィニの言葉を待った。
▼ 本当にごめんなさい!!(スライディングジャンピング土下座)
これ羊くんじゃないですねっ! 羊くんファンの人、本当に申し訳ありません!!
……タイトルの意味は『誘いにのる』だそうです。
2011/06/03
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