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幼馴染み、結城明日奈。
おれは物心ついたころから彼女に恋をしていた。
明日奈のことを大切に思ってきたおれは、ソードアート・オンラインという仮想世界――そのデスゲームに巻き込まれても、ずっと傍にいて、守り続けるつもりでいた。
2024年。死と隣り合わせの地獄が始まってから二年目の年だった。その年の4月、ある日。おれは明日奈――アスナの家に招待され、そうして恋の、相談を受けた。

『――あのね、ユノくん。私……恋、しちゃった』

テーブルを挟んだ向こう側で恥ずかしそうにはにかむアスナを見て、相手がおれではないことを察した。これまで近くで過ごしてきて、薄薄気づいていたことではあった。彼女はおれに恋をすることがないということ。それと共に、彼女はあの孤高の黒の剣士キリトに並々ならぬ感情を抱いているということを。やはりその感情は、恋であった。

『……キリトだろ?』

一拍開けて、おれが名前を告げると、彼女は顔を真っ赤に染めて『なっ、なんでわかったの?!』と声を上げた。普段は落ち着いているアスナが珍しく慌てる様子に、面では口元を緩めながらも、内心では苦い思いを噛み締めていた。ああ、本当に恋をしたんだ。恋をしてしまったんだ。


血盟騎士団〈KoB〉に所属するようになってから、いや、それ以上前からかもしれない。最近は彼女が遠い存在に感じることが増えた。
現実世界では、周囲からは恋人同士なのではないかと疑われるほど近い距離でいた。それがこうして、仮想世界で少しの距離を開けてしまうと、彼女の清廉さと自分の醜さが対照的に浮き彫りになった。むしろどうして今まで、自分がアスナの隣に並ぶに及ばないと気付かなかったのか不可思議と同時に滑稽に思えて、ただ自嘲しか出てこなかった。
心も体も美しいアスナと比べれば、自分はなにもかも凡夫すぎない。そんなこと、少し考えるとわかることだった。お互いにゲームに関連する会社の子どもに生まれたという、立場が似通っているたったそれだけでとんだ思い違いをしてしまったのだ。己の浅ましさに吐き気がした。
そのことが由来して、数週間前まで自棄になった戦い方をしていたおれに、救いの手を差し伸べてくれたのはしかし、アスナだった。『お前はおれが隣にいなくてもやっていけるだろ!』と怒鳴って拒否したおれに対し、アスナは『それでも! 私はユノくんの傍にいるんだから!』と有無を言わせぬ宣言をした。その言葉にこそ、どれだけおれが救われたか。おれが一番欲しかったのは、愛しい彼女に『求められること』だった。

だから――どんなに辛くとも、おれはアスナの思いに応えようと。改めてそう固く心に決めた。新しく結ばれた絆はどこか主従じみていて、けれどかえってそれは相応しかった。この瞬間も、その新たな絆の下に、彼女とキリトの恋を応援することを決心したのだ。





2025年11月。キリトとアスナ、そしてSAOの中で新たに出会った友人アンジュの奮闘でデスゲームが終わりを告げた。
明日奈が許す限りは幼馴染みとして、友人として傍にいよう。そんな思いを抱いて、目覚めてすぐアスナのいる病室に向かったおれの前には、三年前とは幾分か様変わりした、しかし生来の気品はそのままの明日奈が横たわっていた。はしばみ色の澄んだ瞳は、閉じられたままで。

まだ、あのデスゲームは終わっていなかった。


▼ 2014/01/03(2018/02/12up)
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