diabolik lovers→dear lovers | ナノ
見慣れた日常、当り前の景色
「今日は僕が杏樹の血を吸うんだ!」

「何言ってんだオレ様に決まってんだろ!」

「んもう、そんな固いこと言わないでボクにも吸わせてよ〜」

……どうしてこうなった。





週に二度の休日。
その内の土曜日である今日。

相変わらず逆巻家の人々が動き出すのは日が沈んでからだ。
学校がある日はさすがに無理だが、やはり人間として日の目を見たい杏樹は、休みの日となれば決まって朝に起きる。金曜日は普通に学校もあるし、身体的にはかなりきついが仕方がない。
そんな日の夜であるから、もちろん眠い。
何度も言うが眠いのである。

元気いっぱいの子どものようなアヤトに引きずられ向かった先は遊戯室。
何のゲームをするのかと目をしぱしぱさせながら遊戯室の扉を開けるアヤトの背中を見ていたが、なんとまあ足を踏み入れた先にはカナトとライトがいた。

目が覚めてしまったではないか。

なぜ。
なぜだ。

普段は仲が悪いのにも関わらず、なぜこういうときの三つ子はこんなにも気が合うのだろう。
その二人の姿を発見するなり、うげ、と嫌そうな声を漏らすアヤトを眺めながら杏樹は憎らしげに思う。

「なあにアヤトくん、遊びに来たの?」

何が楽しいのかにやにやとした笑みを浮かべるライトはいつものことであるから「ボクは杏樹ちゃんで遊びたいなあ」だなんていう戯れ言も聞き流してとりあえずカナトの方へ足を向ける。
淡い紫色をしたさらさらの髪にゆっくりと触れ、崩してしまわぬよう優しく撫でるとカナトはうっとりと目を細めた。
唐突なヒステリーが玉に瑕だが、それ以外は可愛いカナトに癒されていると、後ろから急に腕が伸びてきてぎゅうと抱き締められた。

「こんなヒステリーばっか相手すんなよ、杏樹」

アヤトくん構ってちゃんだー!とライトがけらけら可笑しそうに笑うが、こちらからすればそんな彼も十分構ってちゃんである。
胡乱げな視線を向けると、ライトに「杏樹ちゃんにそんなふうに見られるなんて心外だなあ」と頬を膨らませられた。……いや、全然可愛くないから。カナトかユイがした方が100倍可愛いから。

「ところで杏樹、」

とカナトがほんの少しだけ低い目線から見上げてきた。

「今日は僕に血、吸わせてくれますよね?」

んん?と思わず目をぱちくりさせて、脳内でカナトの言葉を反芻する。

「ね?」

有無を言わせない笑顔を浮かべて念を押すように詰め寄ってくるカナト……というよりはその胸に抱かれたテディの無言の圧力が怖い。

「何言ってるのさ、今日はボクでしょ? ボクマカロン食べたい気分なんだよね〜」

そうやって横から頬をつつかれましても。
……心身全てをアヤトに任せていることもあって、彼だけに血を与えることが多くなった。だからこの二人はそれが不満なのだろう。少しだけ可愛いなあと思ってしまうあたり、ずいぶん彼らに絆されてしまったものだ。

「寝言は寝て言え! 杏樹はオレ様のモンだ!」

ごめんアヤト耳元で怒鳴らないでほしい。

そしてお決まりのごとくそんな応酬が繰り広げられるのだけど、冒頭はその一部だ。
このやり取りにいつも付き合わされているだけあって、辟易しているところもあるけれど、もはやそれも『慣れ』。
面倒だと思いつつ、しかしこれが自分の日常として受け入れられつつある。

「じゃあゲームで勝負したらいいじゃない」

しばらく言い争いをきいていたが、だんだんと収集がつかなくなりそうな雰囲気がしたので口を出す。
え?何?何で勝負するの?チェス?ダーツ?ビリヤード?
基本的に勝負事が大好きな三つ子が瞳をきらきらと輝かせる。
けれど実際のところ、遊戯室にいるのに申し訳ないが答えはどれも違う。

「チェスだとカナトが不利だし、ダーツとビリヤードはアヤトが得意でしょ。だからみんなに公平なじゃんけんで」

なんでもないように淡々と言うと、ぴしりと三人は固まったが、次の瞬間にはすでに気を取り直している。アヤトなんか腕まくりもしちゃってやる気満々だ。
一方のカナトは何を出すかテディと内緒のおしゃべりモードだし、ライトに至っては両の腕を突き出して交差させ、そのまま掌を握手するように合わせこちら側に捻りその真っ暗な僅かな隙間から神のお告げを見るというじゃんけんの迷信を実行している。わけがわからん。

数分後。一通り準備ができたかな、と思い始めたので、口を開く。
それにしてもこの三つ子、じゃんけんくらいで必死になりすぎだ。

「じゃあいくよー、じゃーんけーんぽん!」

勝負は一瞬、でも誰にでも平等で公平。
じゃんけんの良さはそこにあるのだ。
ちなみに勝敗は一人勝ちのみ可である。

……と、いうわけで第一回目は、カナトがテディの腕を出してるのでグーにカウント、ライトはチョキ、アヤトはパー。まあ最初だしそうなるとは思ってたよ。

「あーいこーでしょ!」

……アヤト、ライト、カナト順に全員グー。次。

「あーいこーでしょ!」

…………んん?
今度はカナトがグーでアヤト&ライトがパー。
さすがに一人勝ちだけってのはなかなか決まらないかな、と少し反省。

「あーいこーでしょ!」

アヤトがチョキでカナトが変わらずグー、ライトがパーのまま。
……これ本当に決まるのかな。

「あーいこーでしょ!」





結果。

「……なんで!! この三つ子は!!!」

ダン!!と思わずビリヤード台に拳を叩き付ける。

「きゃー杏樹ちゃん超アグレッシブー!」

ライトが微妙な棒読みで褒めてくれたが端から応える気はないので、自分が生み出してしまった衝撃のせいで少し涙目になっているカナトの頭を撫でて慰めながら、そのげんなりとした顔をとりあえずアヤトに向けた。

「ねえ一体どういうことなのねえアヤトくんこれどういうこと」

どうして15分もあいこのままなの?
どうして勝負が決まらないの?
一人勝ちのみOKっていうルールでも、三人で15分もじゃんけんしてたら絶対一度は誰かが一人で勝っちゃうのが普通だよねわたし言ってることおかしいかな?
機関銃のようにノンストップで言葉をぶち込むと、アヤトはうろたえながらも唇を動かした。

「そ、そんなのオレもわかんねえよ! あれじゃね? ほ、ほら、オレらって三つ子だからテレパシーってのg「黙らっしゃい!!」……ハイ」

アヤトの貧相な頭にきいたのが悪かった。
もういいなんでもいい。
どうせカナトやライトにきいても返ってくる言葉は同じだ。
しかし今本来の目的、ここ一番の問題を忘れてはならない。

「……で、結局わたしは誰に血を吸われればいいの?」

若干いらついた声音になってしまったのは了承願いたい。
そしてその言葉を耳にした当の三つ子は、揃って顔を見合わせて、示し合わせたように同じタイミングで(しかもドヤ顔で)こちらを見た。

「オレに決まってんだろ」「ボクに決まってるよね」「僕に決まってますよね」

このときほど三つ子滅べと思った日はない。


▼ ライトのじゃんけんの部分は描写に苦労しましたが……、ど、どうにか伝わっているといい、な……!←
  2013/02/13(2013/04/28up)
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