diabolik lovers→dear lovers | ナノ
サディスティックッキング
「……と、いうわけで本日は貴女にも晩餐の支度を手伝ってもらいます」

一体なぜ、という疑問は愚問でしかないのでこの際割愛したい。
敢えて説明するなら、『レイジに勉強を教えてもらう対価』だろう。
等価交換がお好きなレイジは、何かを求めるとそれ相応の代償を欲しがる。それはこの世界では絶対的な理として存在している現象であったが、『無償の』何か、が嫌いではない杏樹にとっては少し不満だった。

まあ仕方ないけどね、と口の中だけで呟く。

この逆巻家には馬鹿しかいない。
語弊があるかもしれないが、あながち間違ってはいないと思う。

誰かに教えを乞おうにも、長男であるシュウは頭はいいものの授業はサボってばかり。人に教えるとなると絶対に面倒くさがる。
三つ子の一人であるアヤトはそもそも頭が悪い。末っ子スバルも然り。
もう一人のカナトは、成績はまあまあらしいが教えてもらうとなると話は別で、自分の思い通りにならなければ必ずヒステリーを起こすと予想される。
残るライトはもう論外。論外である。成績云々よりもそれ以前の問題で、もう何をされるかわかったものじゃない。

……という消去法ののち、選ばれたのが次男レイジであっただけで。
まあ実際、シュウを除いた五人の内で一番成績はいい。
性格面で多少の難はあるが、今そこは目を瞑ろう。

「……なんですか、急に無言になって。気持ち悪いのですが」

全く失礼な奴である。
そんなこと口が裂けても言えないが。

「なんでもないよ」

こうして敬語を取って話すことができているのも奇跡としか言いようがない。
二年前、どうしてか敬語を使うなと言われて以来、敬語を使うと怒るのだ。
しかし逆に敬語なしで話を交わす了承を得たということは、少なからずこの家にいてもいいと認められたようで正直嬉しいのである。

「ところで、今日は何の料理?」

問いながら、この家に来たばかりのころはキッチンに立つことすら許されなかったからなあ、と感慨深げに思い返す。

「ええ、貴女もいることですし、たまには『日本の味』なるものに挑戦してみようと思いまして。本日は主食を『白米』、主菜を『肉じゃが』、そして汁物を『きのこの味噌汁』加えて副菜を『ほうれん草の御浸し』にします」

「またヘルシーな……」

育ち盛りの吸血鬼たちには少しカロリー面で心配だったが、そういえば彼らにとっての『食事』が形だけであったことを思い出し口を噤む。
レイジが何か問題でも、と言うように鋭い眼光を向けた。
杏樹はそれを笑って誤魔化し、彼が二の句を告げぬよう言葉を続ける。

「じゃあ早く作っちゃおうか」

にこりと微笑み腕まくりをする杏樹に、レイジがこめかみを揉んで小さくため息をするのがわかった。
『笑って誤魔化す』という行為自体、本来は彼の勘に触ることなのだろうが、そんな小さなことをいちいち心配していては禿げるということを、以前大真面目に説明してからは彼も小姑のように小言を言う回数が減ったように思う。

それにしても、あまりに準備がいいと杏樹は少し首を傾げた。
日本食にするにしても唐突だし、これはもしかすると自分が『勉強を教えて』と言わずとも手伝わされていたパターンではないだろうか。
この家にはもう一人、生粋の日本人であるユイがいるが、おそらくレイジの見識で『危なっかしい』のお墨付きがついたに違いない。彼女はこちらから見ていても十二分に危なっかしいし、自分を『料理の助っ人』として選ぶのは……まあ言うのもなんだが、妥当な判断だといえる。

それに。

意図はともかくとしても、勉強を教えてもらうのに、その対価が料理の手伝いをすることとはお安い御用だ。むしろ大歓迎、と言ってもいい。

頭の中で考えながらもてきぱきと手を動かす。
お米はレイジが洗ってくれているので、取り掛かっているのは一番時間のかかる肉じゃがだ。

彼もどうやら『肉じゃが』をつくるのははじめてのようだし、一度己が作ってどんな味が『肉じゃが』の味なのかを教えた方がいい気がする。
心なしかレイジもちらちらとこちらの様子を伺っているような。
杏樹は隣のレイジに気づかれないように、彼と並んでキッチンにいることのその奇妙な幸せを、思わず零れた笑みと共に噛み締めた。


▼ 慇懃無礼系ドS、三割減なレイジさんとのお話でした
  2013/02/12(2013/10/29up)
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