diabolik lovers→dear lovers | ナノ
lovers night
たまには授業をサボるのも一興である。
……と思うことにしておこう。

まあ? わたしはこのだらしない長男さまと違って? 一回授業に出なかったくらいでは留年の危険があるわけじゃないし? しっかり授業を受けたかったからと言っても、この人はどうせ自己中だから聞き入れてくれるはずもないし?





夜の学校にどきどきわくわくしていたのはそれは最初のころだけの話だ。
慣れというのは怖いもので、今となっては何一つ夜の学校に魅力を感じなくなっていた。
他の――所謂一般人とはかけ離れた生活をしているのだとしても、それが自分の日常となってしまえば後の祭りなのである。
だから、『授業のサボり』もその『生活』の一環だと考えれば納得がいく……と、思いたい。

「……杏樹、」


この寒い寒い中どうしてわたしが屋上で、シュウと共にベンチに腰を下ろしていなければならないのか。
誰か教えてください。

「杏樹、怒ってるのか」

ええわかってるんだったら解放しなさいよ今すぐに!
と叫んでしまいそうだったけれどさすがにそれは自制した。なぜって寒いからだ。

シュウに後ろから抱きしめられたままじっとしている体勢は、そりゃあ彼のことをだーい好きな女子たちからすると嬉しいかぎりなのだろうけど、あいにく彼は吸血鬼である。全く温かくもない上に、何をされるかわからない。危険も危険。甚だしいくらいに。

上から降ってくる寝ぼけ気味の声を無視していれば、シュウがすりすりと首元に頬を寄せてきた。
柔らかな細い髪が首筋をくすぐるので、思わず笑みを零す。
まるで猫みたいだ、と思ったのはここだけの秘密である。

「……杏樹の首、あったかい……」

シュウが冷たすぎるんだよ、と返すと「そうかあ?」と特に何も考えず返答したような声音。
どうして吸血鬼はそんなに体温が低いのか、という疑問については考えていたところで埒があく問題ではないのでこの際はスルー。
とにかくだ。

「わたしは寒い」

暗に、屋内に入りたいという意味を込めて言ったつもりだが、それをシュウが察することができるかは甚だ謎だ。まああまり期待はしていない。

(今日は喘ぎ声ではないらしい)シュウのイヤホンから漏れる、シャカシャカという音をささやかなBGMに、夜空を見上げた。
今夜は晴天。雲ひとつない星空だ。
白く光を放つ月はもうすぐ満ちそうで、明日か明後日には満月になるだろうと察せられた。

「……月が綺麗ですね」

は、と驚きの声を漏らしたのは他でもないわたしだ。
落ち着いた低い声が、再び冷たい空気を裂く。

「月が、綺麗だな、杏樹」

まさかシュウにそのような教養があったとは知らなかった。
彼は人間のつくったものは音楽以外すべて嫌いだと思っていたから。馬鹿にするわけではなく、ただ珍しいこともあるものだと、心の底から思う。

「ちゃんと聞いてる?」

シュウがその声に僅かに苛イラつきを含ませ、わたしの首筋に噛みついてきた。
清廉な月夜の下で背徳的な行為をするのも、もう慣れてしまったことだけれど、それでも少し眉根を顰めてみせるのは、まだきっとわたしが人間でいたいと感じているからなのだろう。

「……ッちゃんと、聞いてるからっ、」

痛い、と訴えれば、どうせすぐに気持ち良くなる、とくつくつと笑う声が耳元で響く。
その自信は一体どこから来るんだ、と恨めしげに思うが、その思考はやがて甘い闇に呑まれる。頭の芯までじわりじわりと浸食していくそれは、またアヤトとは違う痛み。

「なんで、俺にしねえの」

ぽつり、と泣きそうな声で呟かれれば、どうしようもなくなる。
その微かな変化に気づくのが、自分だけだとわかってるからなおさら。
このまま彼を放っておけたら、どれだけ幸せなことか。しかしそれができない自分は、ひどく罪な女なのだ。
どうすれば彼が傷つかないで済むのか、そればかりを考える。
己の出す答えは、初めから決まってしまっているから。
――わたしは、とても、卑怯だ。

「シュウ、」

彼を傷つけたくないから、ただその名前を呼ぶだけでその答えを言い出せないわたしは、本当に、

「悪いな、また困らせた」

あなたが謝る必要なんてない。
そう言葉にしたかった。
けれどそれすらできないわたしは、そっと手を伸ばしてそのくせ毛を撫でた。
優しく優しく、彼の心が泣いてしまわぬように。
――なんて。
その原因は自分なのだから、ありえないほどおこがましいけれど。
それでも、それ以外に彼の言葉に応える方法がわからなかった。

身体はいまだ、冷えたまま。
牙を立てた首筋の痕に静かに口付けを落とすシュウ。
その冷たい唇を感じて、目を伏せることしかできない臆病者を悪魔のような白い月が寂然と見下ろしていた。


▼ シュウの真剣な思いを拒み切れない夢主でした。タイトルにはそういう意味も込めていたりします。シリーズは次でラストです
  2013/02/12(2014/01/20up)
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