diabolik lovers→dear lovers | ナノ
ただその色に焦がれる
『血を吸われる人は自分で選びたい!』と言ったユイはおそらく最終的には誰も選ばず誰からも極力吸われないようにをモットーに日々を過ごすであろうが、その場合杏樹はアヤトを選んだということになるのだろうか。

アヤトと共にいることが多い杏樹は、時折他の兄弟に『二人の世界に入りすぎだ』と言われることがある。
この間、あのユイにさえ、「杏樹ちゃんってアヤトくんとよく二人だけの世界に入ってるよね」と微笑まれた次第である。その裏表のない無垢な笑みに杏樹は「いやいや入ってないから!」というツッコミを入れ忘れるところだった。

そんなに二人の世界をつくっているだろうか。
杏樹は首を傾げ考えてみるが、生憎全く覚えがない。


「おい、杏樹」


現在、アヤトの部屋。

特製寝台アイアンメイデンではなく、今となってはお飾りも同然となっているベッドに寝転がり、文庫本を読んでいると隣で暇を持て余していたアヤトが声をかけてきた。
なあに、と返す間もなく本を取り上げられる。

「ちょっと!!」

声を上げる杏樹とは対照的に、アヤトは本の表紙を見て顔を顰めた。

「なんだこれ……『えんのものがたり』?」

その言葉で、読書を邪魔された怒りよりもアヤトに対する呆れのほうが勝ってしまった杏樹は苦笑する。

「『とおの』だよ。国語が弱いのは相変わらずだね」
「吸血鬼として強けりゃ問題ねえ」

『ああ、投げられてしまった』と放物線を描き床目がけて落ちていく本に目をとられていると、いつの間にかアヤトが上にのしかかっていた。冷えた手が頬に触れ、杏樹は思わず瞳をきつく閉じた。

「腹減ってんだ、相手しろ」

今の時間帯が夜中で、数十分本を読んだあとは寝ようと思っていたところだ――なんていうこちらの事情は全く考えていないらしい。まあ考えていたらいたでそんなのアヤトじゃないから翌日はなにかとんでもないものが降ってきそうだけど。

「オレ様が血を吸ってやるんだ、目ェ開けろよ」

耳元で囁かれるのには、いつになっても慣れない。

その強い言葉尻も、強引な腕も。どれも乱暴なことには限りないのに、どうしてか彼は、そこに僅かな優しさを混ぜる。壊さないように、壊してしまわないように。その彼の気遣いには感謝している。でも、それで彼は自分の欲求を満たせているのだろうか。

冷たいはずなのに、アヤトが触れていく場所は余すところなく熱を帯びていく。

瞳を開けると、綺麗な緑色をした眼とかち合う。
彼の眼が好きだった。自分のそれはありふれた青だから、そんなどこにでもあるものより、多くの人の眼に映るものより。その鮮やかな翠蘭が好きだ。
思わず顔を綻ばせると、彼も口元を緩めてくれた。それが愛おしさから生まれるものだとしたら嬉しい。

やがて翠蘭が近付き、その顔が首筋に埋まると、視界が赤で染まる。

「っ、あ!」

快い痛みが身体中を襲う。
ぼんやりと血が出ていく感覚をやり過ごす。

そのあとにやってくるちりちりとした痛みも甘い痛みも、全部アヤトが与えてくれたものなら苦痛になるわけがない。全て愛おしい。
愛を知らない彼に、愛を与えたい。愛されたことのない彼に、どうかこのまっすぐな愛が届いたらいい。

「たこ焼き……」

心の中でだけどこの真面目なシーンに加え、血が好物の味だといってもその台詞はないでしょ、としかしそのアヤトらしさに笑みを零す。
するとアヤトが不満げに「なんだよ」と口を尖らせる。
このたまに見せる子どもっぽさがたまらない。当然、口に出すことはないけれど。

「好きだよ、アヤト。愛してる」

そっとその大きな、でも小さな背中に腕を回し抱きしめる。
この華奢な手じゃ無理かもしれなくても、彼の全てを守りたい。そして、彼の全てを支えたい。

「馬鹿かお前。そんなこと言わなくてもわかってるっつーの」

このあとに続く言葉があるってこと、わたしも知ってるんだよ。
杏樹はその張り裂けそうな愛おしさに目を細める。

「オレだって……愛してる。狂っちまいそうなほど、」

どうか神様、彼をこれ以上ひとりにさせないで。
わたしをここに、彼の傍にいさせてください。

この関係が多分。
例の『二人の世界をつくってる』原因なんだろうなあ、と杏樹は思いながら。
その牙を享受し、己の全てを愛しい吸血鬼に捧げた。


▼ アヤトは杏樹の前ではSに『ド』はつきません←
  と、いうわけで今回はアヤトの話でした!
  2013/02/11(2013/02/25up)
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