diabolik lovers→dear lovers | ナノ
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「たこやき食いてえ」

は?と呟いたのは、もちろん例のごとくアヤトの部屋のベッドで寝転がっていたわたし。
本を取り上げられるのはいつものことで、今日も今日とて、さっきまで読んでいた文庫本はアヤトの手中だった。

「……なんだァ? 今度は…なんとかがわ龍之介集……?」
「あくたがわ、ね」

こんなやりとりのデジャヴ、だなんて感じながら、隣のアヤトに苦笑する。
遠野物語を知らないのは許容範囲だけれど、日本で済むにあたって、芥川龍之介くらいは知っておいてほしいものだ。もうなんだかここまでくると、呆れすら覚えない。むしろ、それが良い意味でアヤトの個性だとわたしの中では認識されつつあって――なんというか、そう、

「かわいい……」

ハァ?と間髪入れず盛大に眉を曲げるアヤトに、やばい、これは怒ってる、と「あ、今のなしで」と視線を無理やりそらした。アヤトからの険しい目線から現実逃避するように、夜空は今日も綺麗だなあなんて懸命に窓の外を眺めたが、しばらく時間が経っても反撃が来ない。あれ、どうしたのかな、今夜のレイジの料理に変なものでも入ってたのかな、とかなり本気で心配しつつ、おそるおそるアヤトに視線を戻した。
その瞬間、ばちり、と目が合った。
宝石のようにきらきら光る翠蘭の瞳から目が離せなかった。その赤い髪よりも激しく感情を帯びることのある瞳に、魅入ってしまった。

「……かわいいのはお前だろ、杏樹」

口角を上げてにやっと笑うそれすら様になっていて、悔しい。
どうしようもなくオレ様で、どうしようもなく格好良くて、どうしようもなく愛を知らない。そんな人を好きになってしまったから、余計悔しくて、でも、幸せだ。
真っ直ぐな言葉を向けられて、綺麗な瞳でじっと見つめられることは少ないから、少しだけ気恥ずかしい。静かな二人だけの空間に、柔らかな視線が交わって、それはさながら赤い糸のように結び目をつくる。

「あー、好きだ。好き、すげー好き」

心の声が零れ出た唐突なアヤトの言葉に目を見開くと、ふわりと優しく抱きしめられた。まさか自分がアヤトと出会ったころには、彼がこんなにも他人に優しく触れられる吸血鬼だと決して思わなかっただろう。
気性は全然大人しくないのに、アヤトはちゃんと愛そうとしてくれてる。
どちらともなく再び見つめ合って、そしてキスをする。乱暴じゃない。優しいキスだった。
ここで「普段のドSはどこにいったの」と口に出してしまえば、彼の機嫌が急降下することを経験で知っているわたしは、何も言わずにその口付けを受けた。

「……なあ、もう食べるぞ」

ぎらぎらと劫火のように揺れる翠蘭の瞳には、たったひとりわたしだけが映っていた。
もっと、もっと彼の瞳に映っていたい。彼ほど綺麗じゃないわたしが、そんなことを思うのはとてもおこがましいけれど、でも、彼の許す限りは、ずっと。

「うん、どうぞ」
――愛しいアヤトになら、全部あげるよ。

そう微笑めば、アヤトは驚いたように刹那目を丸くして。

「その台詞、クリーニングオフはできねえぞ」
「……ごめん、アヤト。それ『クーリング』の間違いだと思う」

格好つけて笑うけど、やっぱり国語は弱い、いまいち決まらないわたしの王子様だった。

「だー! もうそんなのどうだっていいんだよ!」

半ばやけくそ状態で叫ぶアヤトにくすくすと笑みを零すと、今度こそ怒ったらしく、がぶりと乱暴に首筋に噛みつかれた。涙目で悲鳴をあげれば、「たまにはこういうプレイもいいよなァ」と反対にアヤトの加虐心を煽ってしまったらしく、これからされるだろうあれやこれを想像して表情から一気に血の気が引いたのだった。
そんなわたしを見てくつくつと笑むオレ様ドSのアヤト王子と過ごす夜はまだまだ長そうである。


▼ あとがきに代えまして、アヤトとのお話。
  2013/08/24(2014/03/10up)
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