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生きたがりの末路
※『世直し』という種族の設定が少しだけ描写に出てきます
※詳しくはこちら




























……ねえ、どうしてあなたはそんなにも死にたがっているの。死ぬことが怖くはないの。

いくらコーデリアのおかげで良かった兄弟仲が引き裂かれたとはいえ、それだけで家族愛や兄弟愛を憎み、挙句の果てには自分を殺させようと仕向けるの。

……まあ、死んでほしくはないとは思っていないのも事実だけれど。
ただやはり気になるものは気になるでしょう?





ライト曰く、吸血鬼というものは死を望み死に焦がれるらしい。
人間とは真逆の生き物だ。
だからこそ吸血鬼と人は永遠に相容れず、対立したままなのだろう。その違いすぎる価値観は、ときに自分たちを狂わせてしまう。

久しぶりに街に買い物に行った際、大型スクリーンでカールハインツ……逆巻透吾の姿を見たからだろうか、そんなことに思いを馳せるのは。
近付いてきた逆巻家の外観を見上げて足を止め、ゆるく首を振った。

人間でいうと『死にたがり』は『生きたがり』の節が少なからずあるし、自分もそういった人間を数多く見てきた。――でも、たとえ人間じゃなくても、生きることを切望した者も多くいたのも、また確かな事実だ。

闇の帝王と畏れられ、夜の世界に名を馳せその全てを手に入れてなお、彼が渇望する『死』というもの。
それがどれだけ素晴らしいものなのかは全く想像がつかない。
……けれど、生きること、生き続けることへの虚無感というのは痛いほどにわかる。彼らに彼らの気持ちを『わかる』と言ったところで逆ギレされるまでなのだろうが、実際理解できてしまうのだ。
自分の場合は過ごす世界が変わるからまだいいのだろう。彼ら吸血鬼は、ずっと同じ場所で、永遠の時を歩んでいかなければならないのだ。些細な日々の中に少しでも普段と違った何かを見つけ、それに心躍らせ生きがいの一つとする――そんな人間のような生き方をしなければ、永久に生き続けることはできない。

カールハインツは以前、己に殺してくれと言った。

馬鹿息子共が私を殺せなかった場合は殺してくれ、と。
何阿呆なことを言ってんだ、この老いぼれとこのときは思ったが、なるほどこうして吸血鬼と暮らしているとその価値観がわかってきたこともあって、あのときのカールハインツの言葉の真意が見えた。

死を渇望するあまり、生まれた感情だったのかもしれない。三人もの妻を娶り、彼女たちに愛憎を生ませたのは。何も考えていなかった、と前に感じたことはあったが、それは間違いだったとも受け取ることができる。コーデリアのせいでそれまで信じていた『愛』というものを失い死にたくなったのかもしれないし――彼は最初から、すべて初めから考えていたのかもしれない、ということだ。そう、自分を殺す方法をずっと。自分を、殺す者を生みだす方法を。

それはなんと空しいことか。

人間の視点から見るとそうだし、自分自身もそう思う。
それはどれだけ悲しく、空しいことか。
生きていることに対して魅力を見いだせない吸血鬼たちに、何を言ってももちろん無駄だ。そんなことはわかっている。でも思うだけならタダのはずだ。

彼の屍を見る日は、一体いつになるだろう。
遥か遠い未来のことかもしれないし、案外近い日のことかもしれない。
けれどやっぱりカールハインツを殺すのも嫌だし、六兄弟の内誰かが殺して人殺しになるのも嫌だ。

ここしばらくは逆巻家も落ち着いているし、暇になったら話し相手にでもなってやるから、どうせなら老衰で死んでしまえ、と腹立たしく思う。そして初の『死因:老衰』という恥ずかしい吸血鬼になってしまえばいい。


相変わらず夜空に映える逆巻家を見つめたまま止まっていた足を動かす。
おかしな音を立てて開く門も――『オバケ屋敷』で世にも怖い吸血鬼たちと暮らす生活も今更怖くはなくなった今日(こんにち)。それでも依然として存在する怖いものは、やはり『死ぬこと』である。


▼ 本当はこのお話がラストの予定でした。
  が、あまりにも後半はシリアスが続くので、ちょっと順番を変えました。
  2013/02/18(2013/06/09up)
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