diabolik lovers→dear lovers | ナノ
眩い誰そ彼
コーデリア。

貴女は罪深い女性だ。

貴女を好きな私を、貴女が愛する私の兄の代わりにするなんて。
私を選べばよかったと、そう言った口から、すぐに愛しげに兄の名前を呼ぶなんて。
私がそれらにどれだけ傷つけられたか、貴女は全て知っていらっしゃるのでしょう。
そんな貴女であるのに、愛することをやめられない私のことも、知っていらっしゃるのでしょう。

貴女に恋焦がれて、狂いそうなほど求めているのに。
――どうか、赦して下さい。
私は、貴女に一生をかけて償わなければならない罪を犯してしまいました。





どうして彼女を目で追うようになったのか、今でははっきりとは覚えていない。
あまりにも印象的であったからだろうか。はじめて見たのは、放浪していた私が小森ユイの様子を伺いに神無町の隣町を訪れたときだった。彼女も偶然その町に用事があったのだろうが、とにかく、とても美しい黄昏色だったという印象だけが脳裏にこびりついている。

熱に浮かされたようにほぼ無意識に彼女の後を追った自分がいた。
彼女が帰り着いた先は『あの』逆巻家であった。これは何の因果か、と居もしない神に問うなどと馬鹿らしいことをした。


――波崎杏樹。

吸血鬼ではないが、限りなくヒトに近い人間だった。
彼女は幾度、幾千と闇に触れているはずなのに、その青の瞳には一点の曇りもなく、その金色(こんじき)のポニーテイルには一点のくすみもなかった。

純粋な人間なのだろう。しかし、彼女のような女性が逆巻家にいては都合のよい餌になってしまうのではないか。そうらしくなく心配してこっそりと様子を伺ってみたが、それが杞憂だったことがわかり安心すると同時に驚いた。彼女の前では、強力な吸血鬼たちも歳相応の青年であった。

考えれば考えるほど、不思議な少女だった。
思えばもう、このときから彼女に惹かれていたのかもしれない。
心に決めた女性(ひと)がいながらも、けれど私はまだ自身の気持ちに気づいていなかったのだ。

そんなふうに、彼女が気になり始め人知れず彼女を追うようになったある日であった。
彼女が、逆巻アヤトに吸血されているところを目撃した。
頭に急激に血が上り、逆上する。今にも襲い掛かりそうになると、彼女の小さな嬌声があの人と重なり鼓膜を揺さぶる。そうして我に返ったあとは、嗚呼、嗚呼、と言葉にならない歎声と落涙が溢れて止まらなかった。

貴女にこのような激しい感情を抱いたことはなかった。貴女が自分以外に血を吸われ、恍惚の表情をしているときですら、これほどの愛憎は抱かなかったというのに。なぜ。どうして。
愛するコーデリア。どうか、どうか赦してください。貴女だけを愛せない自分に気づいてしまった私をどうか、赦してください。





それでもあの人を再びこの手に取り戻すためにはどんなことでもやった。
残酷なことも不浄なことも、どんなことでも行うことができた。

全ては、あの人のため。

(あの人を欲する――自分の、ため)





拝啓、杏樹。
あれから君と交わした邂逅はほんの刹那であったけれど、私にとっては十分幸せなひとときだった。

闇の中、人間達に常に嫌悪されながら永遠の時を生きる吸血鬼が『幸せ』を語るのは皮肉だろう。
君は笑うかもしれない。
でも、私は本当にそれだけでよかったのだ。君に一度でも名を呼ばれるなら、少しでも触れることができるのなら。そんな些細なことでも満たされた。

ああ、杏樹。
私は君の名前を呼ぶのには相応しくない男だ。
君もきっと私を愛することはない。
それでも君を一瞬でも愛した男であったことはどうか、覚えておいてほしい。

そして願わせて欲しい。
どうか、君に永久の幸せが訪れんことを。

――愛している。
心の底から、愛していたよ、


     【 リヒター卿 】


▼ 地味に好きなリヒターさんのお話。報われてほしいです。
  2013/02/16(2013/11/21up)
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