DRRR!!&戯言シリーズ→普通の主人公(♀)の話 | ナノ
外伝/01 再会

※ 戯言シリーズの話を含みます。





会わない会えない会いたい、合えない合いたい、でもやっぱり合わない。


♂♀=1


今日はいい気分だ。
特に深く何も考えないでいられる日だし、なにより学校が休み。

解放感に溢れてる。
半年くらい前に矢霧製薬のネブラ吸収合併とか人身売買、ダラーズの集会騒動。
そんなことがここ池袋に本当にあったのかと思えるほどの――

いつも通りの平和な、いや、いつも通りの平和すぎる日常だった。

だから私はむしろ違和感というか……一種の予感のようなものを感じた。
うーん……。こういうときのそういう感じってよく当たるからなあ。

――そしてやはり的中したのだった。


場所。池袋の中心からは少し離れたところの河川敷。
時間はもうすぐ夕方か、というころだ。


えぇ?! やっぱり、えええええ……。ちょっと待った。待ってよ待ちたまえ。
は。なんで。いやなんで、でもないけど。誰かぎぶみー説明!

ていうかおかしいでしょ。いやいやうそぉ。
よぉーーーし、落ち着け自分。さあ深呼吸だ。
すーはー、すーはー。 (わざとだけど)


「あのさー!なんでここにいるの人識クン………」


あれ?この河川敷でのシチュエーション、なんかデジャヴ。
すると目の前の殺人鬼は、はあ〜〜〜と脱力してため息を吐き、


「反応おせーよ」


そしてピクピクとこめかみを引きつらせながら言った。かなり苛立っているようだ。
どこまで焦らせるつもりかよ……なんてぶつぶつつぶやき始める始末。
自分としては、結構早く反応したつもりだったんだけど。

それにしても。
おいおいおいおい。
冗談だよね?え、これどういうこと?悪い夢?そうであってほしいなあ。
私の知り合いには殺人鬼なんていませーん(現実逃避)。

……一応説明しておくと、これから新宿の臨也さんのマンションに行くつもりだったんだ。
で、たまたまこの道を通りかかって、少し涼んで行こうかなあと河川敷に降りたら――

あーら不思議。視界の隅には……斑模様の銀髪で、三連ピアスにハーフパンツ、レジャー風のジャケットを着て、とどめは目立つ顔面刺青。
いかにもお洒落がんばリストくん的な奴がいた。
刺青以外には見覚えがなく、逆に言うとその刺青には見覚えがあったわけだけど……。
私の知っている人の中でその容姿にピッタリ該当する者は………いるにはいたが、

いやあ見間違いだよねきっと、などとそちらを見ないでスルーしていた。

少し休んで、さて臨也さんのところに行こうかなと立ち上がった時。

――今まで私に気付いてもらおうと手を振ったりナイフを投げてきたりして(危なっかしいことこの上ない)いた――そいつはついに痺れを切らしたようで、

「ふうり、てめえ……」

ドスの利いた低い声で名前を呼ばれた。
それはもうあの池袋最強の静雄さんにも匹敵するほどのものだったし………。
さすがの私でも無視しきれなかった。
あー……もう、なんだっての。

だから(わざと)大げさに驚いてあげたのに。

「とにもかくにも……なんで人識がここにいるの?
 ――ていうか、本当に人識だよね?」
「……おめー、マジで俺をキレさせたいか」
「イエイエ。ソンナコトハナイデスヨー」(←サイモン風に言ってみた)
「キレるぞ」
「ヤメテクダサイホントウニ」(今度は普通に棒読み)

やはりこの人物は汀目俊希――零崎人識のようだ。
ッて言っても、人識だとは確信してたけど。
だってこんな不良っぽい服装とか顔面刺青が似合う奴なんて、こいつ以外にいない。
……ていうか自分、性格変わったなあ………。

昔はもっとナチュラルで純粋だったのに。
これも臨也さんの影響、なのかな…………。

精神がそこそこ図太くなったのはいいけど、でもやっぱりなんだか嬉しくない……。
その上、もともと人識に対しては中学校が途中まで一緒だったし、

まあそこそこ仲のいい友達みたいなものだったから、結構ズバズバ言うようになったんだっけ。
そのころの記憶は、まあ人並みにはいい思い出なんてものはあるが、
それでもそれくらい思い出したくないものはあるわけで。

そのとき。丁度私の思考を遮るように人識が言った。

「いやー、偶然なんだよな、これ。
 俺さ、今はわりと自由なんだ。自由。自由奔放。
 出夢とも連絡とか取れねーし、なんか兄貴たちも『小さな戦争』?とやらにつっきりっぽいし……。それに俺、高校行ってねーんだよなー……。
 仮にも俺零崎じゃん?だから中学で、もう限界だったつーわけだ。
 で、たまたま東京に足運んで、たまたまここに来たら――ふうり、お前がいた」

いや、ビシ、と人差し指を向けられましても。

「ふうん。そうなんだ。
 ――じゃあ双識さんたちにもよろしくね。また縁が合ったらね」
「……おい、待てって」

すぐさまこの場を去ろうとしたら、人識は苦笑気味にそれを止める。

「そんなに俺と会ったのいやだったのか?」

さっきとは打って変わった真面目な表情に、私は少したじろぐ。
秋のさわやかな風が私たちを撫でていった。

後ろでくくっている人識の銀髪が風に揺れる。

「……ううん。そうじゃない」

そうじゃ、ないんだ。

「じゃあなんだよ」

きょとん、とした様子で今度は尋ねてきた。
そんなに今の答えがおかしかったかなあ。

「――言わない」

言おうと思ったけど、止めた。
中途半端に縋るのは、よくないから。
私はもともと――悪い意味でも良い意味でも思慮深くで慎重なタイプだし、

あまり自分を語りたがらない。……そこは少し、あの戯言遣いにも似ていると自負している。

「……はあ。ふうりはほんと頼らねえよなー」

呆れた、そんな声音だった。
いや別に、呆れられてもいいんだけど。
むしろ、呆れられて、ここのまま私から離れて行ってくれたほうが、

――唐突に。
人識がちょいちょい、と手招きした。

「?」

少し不思議に思いながらも彼に近づく。
額を拳で軽く小突かれた、と同時に、


抱きしめられた。


え、何よそれ。
誰も抱きしめてなんて言ってない。


「ひでえ顔、してんぜ」


何も言えない、否、言わない私を風貌や口調とは真逆に、優しく抱きしめてつぶやく。
――私はそんな彼に、やっぱり、どうしても頼ってしまいがちになる。
でも。
人識は殺人鬼で、そもそも人外の存在だから別に巻き込んでしまっても……いいのかな。
以前はそう判断して、一度それを口に出してしまったけど……。

それでも不安は残る。
殺人鬼以前に、彼は人間なのだから。


「してないよ」


だから私はこれからも強がるのかもしれない。
どうにもならない意地を張って、それが無意味だって解っているのにいまだ張る境界線。

「してた。俺が言ってんだからそーなんだよ。
 ま。俺は関係ねーけど……」

そこで人識は言葉を切った。


「甘えろよ、いい加減。
 もどかしくて仕方ねえ。
 俺がそんじょそこらの一般人とは違ェことくらい判ってんだろーが。
 頼れ。そんで守らせて助けさせろ」

――俺は絶対に死なねーよ。


なんて、強い人だろう。

「…………ッ、」

感涙するところだったじゃないの。
なんでそんなことさらりと言えるのかなあ。
天然タラシなの?そうなんでしょ。
……はあ。

……けど。頼もしいのもまた、事実だ。

「うん。わかった。
 ――でも人識。きみどうせ京都に戻るんでしょ」

「んー。まあそうだなあ」

私の言葉に、軽く応え受け流す。

「気が向いたらでいいけどな、こっちにも顔出せよ」
大将とか兄貴も曲識のにーちゃんも、珍しく出夢のヤローも寂しがってるぜ。

そう言うと、ぬくもりを惜しむように一度ぎゅうと私を抱きしめると、そっと放し、

「んじゃ、今度こそ。またな、ふうり」

と見ているこちらも清々しい笑みを浮かべて踵を返す。
その背中は、大きく見えた。

「うん、またね」

だから私も力強い背中に向かって、二度目の別れを告げた。
『縁が合ったら――』とは言わなかった。
言わなくても、会うときは合うものだ。
会わなければ、合わなければ、それまでのこと、なのかもしれない。


彼の背中がようやく見えなくなった時、

「さて。そろそろ行こうか」

河川敷に背を向けて、私も臨也さんのマンションに向かうことにした。


♂♀=2


――それは本来ならばあるはずのなかった邂逅のひとつであり、
風見ふうりが『あちら』の物語での自分の役を一時的に放棄し廃棄した瞬間だった。

――そして彼女は『こちら』の物語で、自らの役割……いや、役目を全うすることになる。

それはふうり自信が望んでいることなのだ。
それが、できることなら幸福な道であるように、ただ人識は願っていることしかできなかった。


▼ 02に続きます。
  若干、『零崎人識の人間関係』に関係しています。
  2011/05/18
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