DRRR!!&戯言シリーズ→普通の主人公(♀)の話 | ナノ
01

「ふうり、」

好きなのに。好きなのに、でも、駄目。
好きになってはいけない。
そんな人に恋をしてしまった私は、とても愚かだ。そう思う。

「……ふうり?」

名前を呼んでくれる声も、さらさらしたその黒髪も、血のように紅い瞳も全部好き。
なんでだろうなあ。
ていうか、出会いからして偶然なのか?
あのとき、私が西口公園にいなければ。彼にも、静雄さんにも出会うことはなかった。
縁って不思議。

「臨也さん、」
「ん?何?」

「………臨也さんって最低のノミ蟲ですよね」

そう一言。辛辣だが、事実のことを言うと、

「ふふっ、ふうりって素直じゃないねえ、全く」

と笑う。
破顔一笑。
胡散臭げな笑みでも、絵になってるんだから、こっちはちょっと困る。
なんとなく視線を合わせづらくて目を逸らす。

「……別に、素直じゃないのは生まれつきですから」

私が応えるとは思ってなかったのだろう。彼は少し目を見開いた。
なんだか、いつの余裕そうな表情しかしていない臨也さんにこういう表情をさせると、
満足感が湧きあがる。うん。ほんと、なんでだろ。

「ねえ、最近さあ」

臨也さんは新しく話題を振ってきた。

「悩んでることとか、ない?」
ふうりはなんでも抱え込むでしょ?

言ってこちらを――仕方なさげな、手間のかかる子供を見るような表情で――見る。
なんとも言えない気持ちだ。心配されるのは嬉しいけど、子供扱いはされたくない。
でも、臨也さんから見ると、やっぱり私はまだまだ子供なんだろうなあ。

「……ないですよ、」

そう。ない。
本当はあるけど。

臨也さんなんかに、悩みなんて打ち明けるものか。打ち明けたらそれこそお終いで。
この恋と同じで。ちょっと違うかな?
報われない。報われるはずもない。

私は要するにツンデレらしい。
と、いうのは知り合いの狩沢さんと遊馬崎さんから言われたことだ。
つまるところ、臨也さんはきっと、私が素直になれば、きっと。
私を傍においてくれない。私は傍に、いられなくなる。
ああ、重症だな、マジで。
なんでこんな駄目人間に恋なんてしちゃたんだろう。正直、現実逃避したい気分。

――悩みは誰にも言ってない。
迷惑をかけたくないから、誰ひとりとして打ち明けないし話さない。
自分がそこまで強くないってことくらい解ってる。
けど、言えない。
性分みたいなもの。
助けて。なんて、
そんなこと、言えるはずもない。
普段からお世話になってるのに、さらに負担になるようなこと。
ああでも。臨也さんには負担にならないのかも。私なんかの人間の重さなんて。
はは。笑える。
ばっかみたい。ばっかみたい。
……ほんと、もう。
限界、近いのかも。

「どうかした?」

急に黙り込んだ私に、彼はいつも通りの――まるで滑稽な道化を演じているような――
笑顔を顔に張り付けていた。

「なんでも、ないです」

私がそうつぶやいて突き放そうとすると、

「ねえ、絶対何かあるでしょ」

確信した表情で、まるで『ふうりのことはなんでもわかってるんだよ』と言わんばかりの表情を浮かべて――

「っ?!放してください!」

――どうして、こんな、

「やだ」
「……やだ、じゃないですよ……もう」

抱きついてきた臨也さんに、抵抗しようとしたものの、まあそれははじめだけで。
逃げられるはずもない。
構ってちゃんだ。
そして何このオイシイしちゅえーしょん。

はあ、とため息をついてから、私は観念して彼の背中に手を回した。
その黒い髪を撫でる。
さらさらだ。気持ちいい。
羨ましいなあ。

「好き好き好き好き好き。愛してる。ふうりラブ」
「――、恥ずかしいこと言わないでください」
「いいじゃん、誰かが聞いてるわけでもないんだし」

これじゃあ臨也さんが子供みたいじゃないか。

うう、と不満げに私が唸れば、

「んーじゃあ、」

何を言うのかと思う。思えば、

「キスして」

………………………………。
………………………………………………………………何を言い出すんだこの人は。

「……なんですかそれ」

なんですそれ。いや、おかしいですよね?
どこが、『じゃあ』なんですか。

「キスがわからないの?」
「そうじゃなくて」

てゆーか何か馬鹿にされてるみたいでむかつく。
臨也さんなんかに。

「なぜにキスなんです。私は拒否権を発動します」
「日本語意味不明だから」
「臨也さんのほうが意味不明です」
「……好きだから、愛してるからじゃ駄目なの?」

そんな顔で、『駄目なの?』なんて言わないでください。それで何人のか弱い女の子を落としてきたのか知りたいですよ本気で。

「駄目です。第一、そういうのは両者の同意というものがあってですね。
 私は断固拒否します」

「――なんでふうりは嫌なの」

心なしかむすっとしているようだ。
抱き合っている状態だから、臨也さんの表情は伺えない。
けど、鼓動は伝わってる。なんか、改めて生きてるんだなあって実感できるね。
今関係ないけど。

「嫌、じゃあありません。嫌じゃないです。でも、―――――」

言葉を濁す。

「でも、何?」

そこにすかさず食いついてくる臨也さん。本当に『らしい』人だ。
そういうところにも、惚れたんだけど。
好きです。愛してますって、伝えらたらいいのになあ。
ああやっぱり、私ってモノ好き。

「なんでもないですよ。ええ、なんでも」

ぶっきらぼうに答えると、彼がクスリと笑みをこぼすのがわかった。

「ふうりはツンデレさんだねえ」
「……何を言うんですか」

本当に、本当にこの人は爆弾発言をよくしてくださる。
もちろん、悪い意味で。
先が思いやられるなぁ。
でもなんだか、臨也さんとなら――って思ってしまう。何この臨也マジック。アリエナイ。
――本当に好きなんです。ラブってます。

けど、けれどもやっぱり、臨也さんは臨也さんなんだなあって思うときがある。
確かに私はその外見からしてどストライクでド真ん中の直球だったので、
外側から好きになったと思う。なんとも失礼な話だ。自分が言うのもなんだけど。
まあ実際は、『これマジで人間なの?』っていうくらいの極悪非道、人畜有害、
劣悪鬼畜の黒幕主義者の可愛いけどかっこいい、でもうざい人だったわけで。
それでも嫌いにはなれないんだよね。
これも魅力の一つ?

しかし。そこで疑問なのは、どうして私みたいな一般人を好きになったのかっていうことだ。
臨也さんのことだから、気まぐれで。もしくは嘘で、っていうことなのかもしれない。
けど臨也さんが本気で私を好きだと仮定して。
なんで私?
なんで?どうして?
こんな普通の、平凡すぎる人間の、特にとりえもないし、
意地っ張りっていう仮面被って、弱いくせに強いふりしてるこんな卑怯な奴のどこがいいのか、
誰か教えてください。
マジで。
臨也さんなら、もっと綺麗な人と付き合えるのに。
……あ。そうか。この性格だから、それに順応できる女性がいなかっただけなのかな?
それだったら、なんか。……ああやっぱり微妙な気持ちだ。

――というわけでまあ多分、ていうか絶対、私は彼に愛の告白はしない。
うん。しない。
さっきも言ったけど、したらそれで終わり。ハイ、お終ーい。
そんなの悲しいよね。哀しすぎる。
私はもっと、この居心地のいい環境に生活に溺れていたい。

静雄さんとほどよく一緒に過ごして、
帝人や杏里ちゃんや正臣ともほどよくつるんで、
サイモンや板前さんに会いに露西亜寿司に行ったり、
折原家(臨也さんの実家。でも池袋)に行って九瑠璃ちゃんと舞流ちゃんと遊んだり、
京平さんや狩沢さんや遊馬崎さんとアニメイトに行ってみたり、
渡草さんとカズターノと聖辺ルリちゃんのコンサート見に行ったり、
波江さんとお茶したり、矢霧くんと美香ちゃんと話をしたり、
セルティや新羅さん――そしてたまに千景さんのところに様子伺いに行ったり、
仕事が忙しい幽さんに差し入れしたり。

――そんな日常に、満足してる。今のままでいい。変わりたくない。

でも臨也さんはどうなのか。それがただ一つの問題で。
私たちは変わりたくなくても、彼が何もかもをめちゃくちゃにしようとする。
私には何もなくて、みんなの力になれないかもしれないけど、それでも精一杯。
臨也さんがそういう人間だって解ってるけど、その上で私は、
私のできる限りのことをして、みんなを助けることができたら、いいな。なんて。

無理かな?できるかな?
こっちはもう、臨也さんに惚れてるのに。惚れた弱みがあるのに。
私に臨也さんを止められる?
でもまあ。やるしかないだろうね。
今のままがいいのなら。
私はみんなと過ごすこの日常が好きだから。
臨也さんのことを好きでいて、けれどそれを言わなくて。
彼を切り捨てられないならそれでいい。欲張りでも我儘でも関係ない。
神様は、人間に乗り越えられる試練しか与えないから。大丈夫。やれる。

でもなんだか、普段大人な臨也さんを見飽きているからか、
子供っぽい姿を見ていると癒されて、こういうことでぐだぐだ悩んでる自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。
この人はなんだかんだ言っても、自分の気持ちに正直で突っ走れるからいいよねえ。

「――ねえ、」

そして唐突に臨也さんはつぶやいた。

「少しは、気が紛れた?」

私は僅かに目を見開く。不意を打たれた。何、それ。

「あ、ええ、まあ、はい」

「…………………………なんだよその返事は。折角人が心配してあげてるっていうのにさ」

しどろもどろに答えると、臨也さんは口を尖らしているように言った。

時々、わからない。わからなくなる。
臨也さんが私を本当に好きなのか、そうじゃないのか。
私は後者だと思うんだけど。

「まあ一応、ありがとうとは言っておきます」
「……はあ。どういたしまして」

若干呆れたような声音だった。

――臨也さんのぬくもりが放れる。離れる。
とっさに、嫌だ、と思って。

彼の服の袖を掴んで、しまった。ああ、駄目だ。

「?」

どうしたの、と視線で訴える臨也さん。
気付かれた。気付かれちゃった。どうしよう。

「あ。いや、なんでもないです」

ぱっと手を離した。

これ以上傍にいると、依存してしまいそうで。
まあとっくに依存してるけど。
でも。
今日は臨也さんが珍しく、本心から私を心配してくれたみたいで――少し、嬉しくないわけでもなかった。


ある日。
それは彼女がまだ来良学園一年生のころの、新宿の某高級マンションでのお話。


▼ だいぶ前に書いたデュラと戯言のクロスオーバー夢小説、一話。
  臨也は通常運転。
  2011/05/13
[ 2/21 ]
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