雪のように儚く、白い
白。白といえば誰だろう。

エルデン。鉄鎖の憩い場の通りを特に何の用もなく歩きながら、杏樹はふと思った。
いや、遠く前方を、白い髪の誰かが通り過ぎて行った気がしたのだ。
それが白髪だったのか、ただの生まれつきによるものであったのか、判断はつかなかったが。

……ユリカ。あとはルーシー。

名前に“白”という単語が存在する彼女と、――“白”と言えば語弊があるかもしれないがそんな髪色をした彼。
まるで灰を被ったような灰色の髪が、意外と好きだったりする。
もちろん、ユリカの流れるような金髪も好きだ。

「……ZOOの事務所にでも行こうかな」

基本的に、杏樹はクラン≪昼飯時≫に所属しているが、様々な事情から半分ZOOの一員のようなものなのである。
白、という色について、少し考えながら、事務所までの道を歩く。

――雪の、色。
白色を持つものは色々あるが、それはそのものにとって固有のものではないし、何度でも染めたり塗り重ねたりすることができる。
純粋な白、とは。雲や、雪だ。特に杏樹は雪が好きである。
空から降り、積もり、やがては溶けて消えてしまうけど、儚い運命だけれども。
それは決して、『死』ではない。

「…………」

そういえば、ここに来てからは、雪なんてものを見たことがないな。
エルデンの人たちは、雪を体験したことがないということか。
雪合戦、ほんとに楽しいのになあ。もったいない。

「……杏樹かい?」

目の前に、大きな黒い壁が広がり、ぶつかって進めないと思ったら、それはアジアンだった。
精緻な白い肌。サファイアとはまた違う、青みがかった瞳。闇を思わせる黒い髪。

「……げぇ」

流麗なその美青年が、実はマリアローズを追い掛け回す変態だという事実を杏樹は知っているため、(自らのクランの頭領でありながら)嫌そうな顔をした。

「……なんだかとても傷つくヨ」

普段は冗談で「それは照れてるんだネ! サア、ボクの胸に飛び込んで「黙れ」ぐふおぉっっ!!」という会話を、このあと交わすことが多いのだが、今日はアジアンにしては珍しく、素直に傷ついてくれたようだ。
それはそれでいいのだけれど、いつもと違うアジアンというのも少し気色悪い。

「……またマリアになんかしたの?」

彼がこんなときは、大抵マリアローズに相手にされず振られたときだ。

「“何か”?! 何もしていなイ! 今はまだ!」

「……あ、そう」

一体何をする気だったんだと、可哀そうなマリアローズに同情した。
……こんな頭領でごめんなさい。

「それはともかく、聞いてヨ杏樹!」

あーうるさいのが始まった。
涙目ヤメテ。いい年した美青年が、そんなものを公衆の面前で晒すんじゃない!

「手紙! 手紙をマリアに送ったんだヨ! マリアがそれを読んでどんな嬉しそうな表情をするのかが気になって、封筒を開ける瞬間まで見てたんだヨ!」

「……はあ、それで?」

もう投げやりな相槌だ。
さすがにこんな話をほとんど毎日聞かされていては、うんざりするのも当たり前だと思う。

「するとネ……! マリアは一瞬固まって……ボ、ボクの手紙を……ひ、ひきちぎっっ! 杏樹ーっ!!」

「はいはい」

ついに泣かれてしまった。
マリアはその手紙を破ったんだよね。うんよくわかる。
泣きついてきたアジアンの背を、ぽんぽんと優しく叩いて慰める。
……なんでこんなことしてるんだろう。

そうして杏樹の中で今まで繰り広げていた“白”についての思考は、強制終了させられたのであった。


▼ こちらも一年前。
  なんか一番出来悪い気がしますねー()
  杏樹とアジアンは、友達以上恋人未満。でも恋愛感情じゃなくて、家族みたいな関係です。
  2011/03/09(2012/07/20up)
  title:precious days
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