向日葵を思わせる黄色
今日昼下がり、トマトクンが自宅に背の高い花を持ち帰ってきた。初めて見る花。
しかも鉢付き。その上、一つならともかく、十個も。
居候だからなんとも言えない。
どうやら今回の“仕事”の報酬だったらしいけど。
……一体なんのつもりでもらって帰ってきたのだろう、と思わずにはいられない。
トマトクン曰く、この黄色い花は『向日葵』と書いて、『ひまわり』と読むらしい。
夏の暑さにはぴったりの花だそうだ。

太陽に向かって大輪の花を咲かせるそれらを見て、マリアローズの脳内に一人の少女の姿がぎった。

黄色に似た金色の髪。
日に透かせば、キラキラと輝く長い髪。
頭の横でポニーテールのように一つに束ねられたそれは、風とともに鮮やかに舞い上がる。

「……なんだ、杏樹でも思い浮かべてるのか」

向日葵が一輪植わっているその鉢は、よくわからないけど土の中に埋めるとそのまま自然に馴染む仕組みになっているらしい。
しゃがんでいるトマトクンがそれを埋めた上に土を被せ、ぽんぽんとスコップで均しながら、問いかけてきた。
……それは果たして本当に“問いかけ”だったのか。確信のような声音だったが。
――にしても、こんなにスコップが似合わない男はいない。うん、いない。思い当たるやつがもう一人や二人いないわけではないが、うん。いないったらいない。

「うんまあね」

と答えれば、「奇遇だな俺もだ」と返される。
それがどうしたということだが、まあそんなのはトマトクンには通用しないわけで。

「まず黄色っていうところが似てる。それから太陽に真っ直ぐに向かって咲くひたむきなところも、明るさや活発さを思い浮かべさせるところも。どこか優しさや力強さがあるところも。……だから俺は向日葵も好きだが杏樹も好きだ」

……ほんとに一体何をどうしようと思って、こんなことを言うんだろうと本気でマリアローズは呆れた。
これをサフィニアが聞いていたらどうするんだ。うん。絶対卒倒してる。
それとともに、『確かにそうだ』という共感も覚えた。
いつも突拍子のないことを突然言ってくるトマトクンの言葉と、同じ気持ちになるというのは、少しだけ癪に障らないでもないけど。

「……そうだね。僕も好きだし」

ぽつりと向日葵に目を向けたまま応えたあと、ちらりとトマトクンに目をやると、

「……なんだよその顔」

今にも『ヒヒヒ』と笑いそうな、意地の悪い、しかしどこか憎めない、悪戯が成功した子どものようににやりと口元に弧を描いていた。
ぶっすりとした表情で問うと、

「別になんでもないさ」

と答えられ、彼は次の向日葵を地中に植えにかかる。

「…………」

一体なんなんだと半ばその理由が分かりながらもため息をつき、改めて植わったその花を見た。
大きな背の高い花。黄色の、金色の花。

――杏樹、今日は来ないのかな。

そしてマリアローズはそう、いつの間にか考えていたのだった。


▼ こちらも一年前。
  金色、黄色といえば杏樹以外にユリカも思いつきますが、今回は杏樹ということで;;
  2011/03/09(2012/07/20up)
  title:precious days
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