01/01 無表情 (原作以前。高校一年の5月)

※必読にもありますが、特殊設定が特に濃いお話ですので、読まれる際は注意なさってください。





























空目恭一という人物は、放っておくとうんちくを始める同級生だ。
奇怪図書館と呼ばれ、主にその知識はオカルトに偏っている、+傲慢な態度・黒づくめの恰好から『魔王陛下』と称される。
言葉遣いも同年代とは少し異なった、達観しているようなしゃべり方だ。
そんな存在が今、自分の目の前にいる。
………ていうか、なんでこんなことに。


「――お前は何だ」


抑揚のない声で、的確な質問だった。
波崎杏樹という存在は、聖創学院大附属高校に転入してきた一年生の立場である。
そして眼前の空目恭一なる人物も、転入こそしていないものの、この高校の同じく一年生だ。
どうやら彼は文芸部に所属しているらしく、今杏樹はその部室に空目と二人きりだった。

転入初日。つまりは今日。

四時間目の授業が終わり、さて食堂に行こうかと教室から出た時、急に空目に腕を掴まれ、問答無用で部室に連行されたのだ。

鋭い彼は杏樹がこの世界の者ではないことを察したのだろう。

まあもともと杏樹は世直しのため、遅かれ早かれその中心である空目には接触する予定であった。
つまり向こうからの接触(アクション)はむしろ好都合なのだが……。

さすがに一対一というのは厳しい。
なにせ、彼は無表情だ。

その上で醸し出す雰囲気は、冷淡を極めたもので――

――その空ろな闇色の瞳は他人をどうとも思っていない節が見受けられた。
もうすでに壊れきった……いや、歪みそして狂いきった人間の成れの果て。

そんな気が、杏樹はした。


「……世直し、だけど」


空目相手に嘘は通用しないだろう。

それに、嘘をつく理由もなかったので、杏樹は素直に答える。

すると空目は驚いた様子もなく「そうか」と一言。
話しかけておいてこれ以上会話を続ける気はないのか、言葉を発さない。
机を挟んだ向かいに座る空目は、

杏樹ではなく虚空をぼーっとしているのかそうではないのかよくわからない目で見つめていた。


一方の杏樹はといえば、彼について思考を巡らせていた。
……というよりも、戸惑っていた。

こういうタイプの人間は初めてだ。

ただ冷淡なのではない。ただ無表情なだけでもない。
冷淡なのに、冷酷ではない。
ほかの人から見れば、彼のような他人を寄せ付けず、他人に気配りなんてものをしない者は冷酷だと考えるかもしれない。

だけど、そうではない。

単純に無表情なのではない。
空目は達観している。傍観、ともいうのだろうか。否、見下しているのだろうか。
世界の何もかもを知ったように、世界の何もかもに期待していない。
何にも執着せず、必要最低限以外の感情は持ち合わせていない。
だからこその、無表情。

でも、と杏樹は思う。

空目には、一応友人はいるのだ。
社会性ゼロの彼でも、休み時間に他の――といっても、

この文芸部のメンバーらしいが――人間と話をしているところは見ることができる。
一見、この場に馴染んでいるように見える。

だけれどその異質さは一目瞭然。
そんな曖昧さ・不安定さを持ち合わせている空目のことが、杏樹はわからなかった。

無表情で冷淡で、他人を寄せ付けない空気を纏っている。
それは悲しく寂しい人間だ。
しかし共に話をする友人も幾人かいる。
それは悲しくもないし寂しくもない人間だ。
考えれば考えるほど、判らない。
明らかにおかしいのに、そうじゃない。

一言でいえば、探究心なのだろうか。それとも、好奇心なのだろうか。
両方とも違うかもしれない。
――空目のことを知りたくて。だから、杏樹は尋ねた。


「――ねえ。あなたの友達になってもいいかな?」


一瞬、空目はこちらの真意を測りかねているのか眉根を寄せ、杏樹の目をじっと見て、その言葉に裏はないと知ったのか、
「何訊いてるんだこいつ」と呆れたような顔をして。
最後には常態である無表情に戻り、

「あぁ」

と了承した。

大したことでもないのに、このときの杏樹にとっては「大したこと」のように思えて。
口元を綻ばせた杏樹に対し、

すでに別のところへ目を移していた空目は「変な奴だ」とでも言うように視線を一度寄越したのだった。


――それは人界の魔王と異国の姫が、出会った日の出来事。


▼ 2011/05/16
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