18/33 決意 (4巻以降5巻以前)

※特殊設定をにおわせるような描写や原作を改変している表現がありますので、読まれる際は注意なさってください。



































この『物語』を変えてしまえたら、どれだけいいのだろう。
この『物語』に流されてしまえたら、どれだけ楽なのだろう。

異界というモノに縛られ、そして死んでいく者が多いこの街で。
それでもわたしは、大切だと思える人たちに出会った。

だから、変えたいと思った。

大切な友人たちに、傷ついてほしくないと思った。
この街の人々に、死んでほしくないと思った。
わたしがいる世界で、誰にも死んでほしくなかった。

もともと定義された『物語』を変えてしまうことは簡単じゃない。
悪い言い方をすれば、今わたしがやろうとしていることは、捻じ曲げることだ。
けど助けたいから、変える。
現に、なんとか歩由美先輩は救うことができたのだ。

この世界は、はじめ、とても怖かった。
自分の中に隠してあった自分の本質を暴かれるような気がして、震えていた。
でも、それは徐々に愛おしさに変わった。
確かにここは、狂気で歪曲した世界なのかもしれない。
だけどそうじゃなくて。ずっと待っていた何かに出会ったような、そんな気がしていた。
日常の隅に非日常が潜むここで、それでもわたしは今まで以上に幸せな日々を過ごした。異界なんてものがなければ――そうすればもっと、穏やかにのんびりと平凡とした日常が在ったのに。そう思ったのは、一度や二度のことではない。

異界に関わっていないときのみんなは、とても幸せそうだ。何も知らないままでいたら、どれだけ楽しい日々だったのだろう。何もなければよかったのに。ファンタジーなんてなくて十分だったのに。どうしてこうも、世界は理不尽なのだろう。

空目は異界を望んでいて、俊也は異界を憎んでいて、亜紀は内に犬神を宿して、稜子は摩津方の依代にされて、武巳は普通を願っていて。

平凡な平和な日常に隠れたその感情が、やがて異界によってあらわにされたなら、みんな離れ離れになるのは周知だ。おそらくそれは、どこかで判っている。判っているけれども、判らない振りをしている。……わたしも、そんな中の一人。

どうしようもない隔絶の中で、その気持ちをひた隠しにしている。
あやめ――「神隠し」と空目が出会ったときから、この『世界』の『物語』は終わりに向かっている。そしてわたしは、みんなが、この五人がずっと一緒に、これからも幸せにいられたらいいと思っている。そのためには、

「世界と物語と運命を変える。絶対に」

すでにそれは加速を始めている。もう終わるまで止められない。
だからこそわたしは乞い願う。

「――だからね、空目。異界へ行かないで」

傲慢かもしれないけど、うまくいったら異界を閉じることもできるかもしれないから。
夕暮れの橙色の光に包まれた部室で言ったわたしに、

「波崎が創る、未来次第だ」

彼にしては希望的観測で、応えてくれたのだった。
それがどういう真意の許の言葉だったのか、わたしが理解するのは少しあとのことである。


▼ 文章のクオリティに関しては、もう今更なのでツッコまないでください……;;
  2010/9/18(2014/06/03up)
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