11/31 未来の話 (1巻以降2巻以前)

※必読にもありますが、特殊設定が特に濃いお話ですので、読まれる際は注意なさってください。













































「ねえ、空目。空目は、さ。どうするの?」

異国の姫――杏樹が言った。

「どうするの、とは?」

人界の魔王――空目が聞き返した。

「えーと……なんて言ったらいいのかな。不謹慎だけど……この世界の、空目たちの『物語』――が終わったら」

昼休みの文芸部室だった。
まだ後輩も、同級生の武巳たちも来ていない、空目と二人きりの早い時間。
杏樹はふと疑問に思ったことを訊いたのだ。
そういえば、どこかでもこういう質疑したことあったなあ、と思い返す。

「……どうもしない。最後には異界へ行っている」

あくまでも本を読みながら。淡々と答える空目。
いつもの無表情で、視線は活字を追っている。
例によって例のごとく、それは魔術という偏った黒い知識の書物だった。分厚い。


「あのさー。空目には言っても意味ないと思うけど、残される人の気持ち、考えたことある?」

頭の片隅で、「あやめちゃん、なんでいないのかな」と思いつつ問うと、

「あるが。そんなものは結局見解と思想の相違だ。一方的な強要だろう」

やはり機械的に答えられ、杏樹はむっとした。

「そんなの空目もそうじゃない! わたしは、空目にここに居てほしいのに!」


それこそ思いを無理やり押しつけているだけだ。
そんなことはとうに解っている。
だけど、そうでもしないと空目はどこか遠くに――異界へ行ってしまう。
それが杏樹にとって、どうしようもなく嫌だった。理由もわからず嫌だった。

「あたりまえだ。個々の願いなどというのは、
他人のそれを貶(けな)し踏みつけることで叶えられるのだからな」

前の言葉と矛盾していることは気にしていないようだ。さらりと言う。
何の感情もなくただ事実を述べている。それがさらに杏樹を逆撫でした。

「そうだけど! だけど、わたしが言いたいのは……っ!」

怒鳴りかけて、空目の静謐とした冷たい目に我に返る。

「あ……、ごめん……」

空目から視線を外し、気まずそうに謝った。
そんな彼女に、空目は。今度は杏樹のその青に澄んだ瞳を、真っ直ぐに見て応え、尋ねた。

「いや。――ならば波崎はどうするつもりだ?」

話を急に転換することは、彼にしては珍しい。
杏樹は少し驚きつつも、


「ん……。さあ、どうするかなあ。まあ数年は『まだこの世界に居る』と思うけど……」

言葉を濁す彼女に、空目は幽かに眉を寄せた。

「『けど』とは?」

「――ううん。なんでもない」

杏樹は苦笑して。

――わたしは、絶対に空目を助ける。異界へは行かせない。みんなも、このままで。そんな平和な、日常のままで。この世界に残り続けることを望むよ。

もしかすると、頭の回転の速い空目のことだ。
そんなふうに杏樹が考えていることなど、とうに解っているのかもしれない。
その真意は本人にしかわからないことだが。

「そうか」

空目はいつものように、無感動な顔で。
再び視線を本に戻し、応えたのだった。





部室の外から、ばたばたと廊下を走る音が聞こえ、それが丁度この教室の位置で止まる。
空目は、近藤たちかと脳内でぼやきながら、こういう何事もない日も悪くはないと思った。
あくまで、『悪くは』ない。


「この前の日記の続き、書こうかなー」

「止めろ」

にこにこと、杏樹が笑みを浮かべて言葉を漏らす。
それにすかさず空目はツッコミを入れて止める。

「やーだねっ!だって面白いし!」

――どこがだ。

さらに楽しそうな笑みをする杏樹に、怒り半分にそう口を開きかけた瞬間、

「おーっす!波崎に陛下!」
「今日もやってきましたー文芸部っ!」
「さっきぶり。杏樹、恭の字」
「し、失礼します……」
「二人ともいたのか」


「『いたのか』とは何だ!いたよ!いたともさ!」

――自分としては、賑やかよりも静かなほうがいいのだが。
人知れずため息をついた空目恭一、ある日の出来事だった。



▼ 最後の台詞は上から武巳、稜子、亜紀、あやめ、俊也、夢主です。
  そしてさすが三年前の文章。意味が分かりませんね!←
  2010/08/28(2013/06/30up)
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