Starry☆Sky&夏目友人帳→ひとりぼっちのお姫様 | ナノ
04 困ったように、嬉しそうに

今日もまた、授業が全て終了した。
教科書等を鞄に入れ、立ち上がり、廊下に出る。

「…………今日は、大丈夫だよね……?」

にっっっこりと、笑みを浮かべた大魔神がそこにいた。





東月錫也という天文科1年の彼は、こんな性格だったろうか。
いやむしろ、いつからこんな性格になったのだろう。

昨日。
錫也にクッキーの作り方を教える一日目だったわけだが、私はすっぽかした。
……というか、『用がある』と嘘をついた。
何が好きで人と関わらなければならないのか。
昼食を共にしただけでまだマシだ。
今日も同じく、適当に嘘を言おうと思っていたのだが、私が寮に帰るよりも先に、錫也がこの教室の外で待ち伏せをしていたらしい。向こうが一枚上手(うわて)。
思い通りにならない現実に、眉根を寄せる。

――調理室。

拒否権など一切存在しない問いに、私は頷くことはないまま連行された。
もうここまできたら、『クッキーの作り方』を教えて、それですっぱり別れた方がいいのか。

「………………」

無言の微笑を利かせてくる隣の彼を一瞥して、私はため息を吐いた。





「……ところでなんだけど。一つ、訊いていいかな?」

生地をクッキーの形に練り終わり、それらをプレートに並べ大きなオーブンに入れた。
W(ワット)と時間を設定する。
これで一先ず、一段落がついたと言える。
そんなときを見計らったように、錫也は口を開いた。

「…………いいけど」

嫌な予感がした。
だから、

「答えるか答えないかは、私が決めるから」

そう付け足す。
錫也は、苦笑した。

「……君は――如月さんは、どうして一人でいるんだい?」
俺が話しかけても、むしろ突き放したような話し方をするし。

まだ他人行儀か、と思った。
純粋に。私は彼に、身内でいてほしいなどとは全くもって思ってもいないが。
ただ、自分のことは『錫也』と呼べと言うわりには、いまだに私を赤の他人だと判断している。
…………こういう人間は、上辺で優しげな微笑を浮かべながら、内では微笑を浮かべる対象を嫌悪することが多い。まだ、態度で『嫌い』というオーラを表す人間よりはマシなのかもしれないが。
私としては、どちらも同じくらいに嫌いだ。

「………他人と関わる必要性を感じないから」

無感動な、昏い瞳をしているだろう。今の私は。
そんな私に気付いてか否か、しかし彼はそのことよりも私が問いに答えたことの方が衝撃的だったのだろう。
目を見開いて、やがて言う。

「でも……、そうか。そういう考え方もあるんだね」

――へえ、

私は少し、彼を侮っていたかもしれない。格下に位置付けしていたのかもしれない。
過小評価するべき人間は、目の前の彼ではない。
大多数の人間は、自分の考えを、他人に押し付ける。
例えばこの場合、「でも、必要性を感じるか否かで、他人と関わるか否かを判断するものは、あまりにもおかしい」と。そんな主旨の言葉を吐く。
けれどこの眼前の青年は。それを言いかけたのか、それとも別のことを言おうとしたのか。その口を一度閉ざし、私の見解を改めさせるようなことを言った。

だが結局は、表面でだけの同感だ。
同じ景色を見ることのできない人間が発する文句だ。

「…………それだけ?」

もう質問を続ける気がないのかを確かめるニュアンスを含めて尋ねると、錫也は申し訳なさげに眉を下げた。

「……もう一つだけ。頼みがある」

彼の雰囲気から、私が承諾する確率はほぼないだろうと踏んだ上での依頼だとわかった。

「――俺と、友達になってくれないか。……いや、なってください」

「…………!」

今度は私が驚く番だった。
なんだこいつは。
本当に、予測不可能なことをしてくれる。

「――ふふ、」

頭を下げていた錫也が、何事かと顔を上げて私を見た。

「……………………必要最低限だけ、なら。それなら別にいい」

こんな人間も、いるものか。
一日目。おそらくは夜久月子のため、私と話を交わしたのかもしれない。もしくは、孤独で可愛そうな同学年の生徒のために。そんなものはいらない心配だというのに。
二日目。昼食に誘われた。幸いにも屋上庭園で二人きりのそれだったが、私が本気で突き放しても、向こうも本気で食い下がってくる。
三日目。一度すっぽかしたのだから、諦めればいいのに。私の心を解ったような振りをして、あげくの果てには『友達になってくれ』だって。頭おかしいんじゃないの?
私は君たちとは違う種類の人間なのに。それ相応の態度でいたのに。

――でも。やっぱり、私は人と関わらないから。

関わっていいことなんて一つもないし、逆にいいことがあれば人と関わりたいのか、関わるのかと問われても、
私はずっと独りでいたから、独りが当たり前だったから、これからも独りがいい。
どうせここで断っても、彼はそれでも、私に付きまとうのだろう。
面倒くさい関わりはいらない。
私が本当に欲しいのは、夏目みたいな友人。

嬉しそうに弛緩して微笑んだ彼を前に。

私は、心の中の“他の人間”と同じような矛盾を、蹴り飛ばした。


▼ この連載を続けることができるのか不安になってきました……。
  2011/05/13
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