死神と少女→蒼と黒と、 | ナノ
ユメミルセカイ






「あれ? お嬢と若! こんなところで何してんの?」

ある穏やかな日。

日生光こと『元』生徒会長さまは、この間買っていたのと同じ赤い薔薇を、今日も抱えていた。
数輪の真っ赤な薔薇を、束にして携えている様子は本当に様になっている。
日生先輩には、もしかしたら半分は日本人の血ではないものが流れているのではないだろうか。
日本人に似合うのは、いつだって桜なのだから。
ここまで薔薇が似合う人なんて、滅多にいない。

「何って……蒼を待ってるんですよ」

「時計塔の下で? こんな昼間に? なんで?」

わざわざしっかりと簡潔に答えると、それにもかかわらず日生先輩は疑問符ばかりを並べ立てる。もう生徒会は辞めたというのに、最近は去年にもまして日生先輩との遭遇率が高く。
生徒会だったころの俺の主な疲労原因は日生先輩だったため、彼と離れられることに万々歳していたところにこれだった。
……もう関わりもなくなるのか、と残念に思ったことがないでもなかったが、そんな気持ち俺は信じない。

ちらりと紗夜を見やると、面白そうだといわんばかりに静観を決めかねている様子で。にこにこと笑まれただけであった。
そんな相変わらずの部分にため息をつき、俺は改めて日生先輩と向き合った。

「時計塔が、待ち合わせ場所として分かりやすいからです。
それから、蒼がなぜか昼がいいと言って、いつもこの時間に待ち合わせてるんです。
休みの日は、蒼と図書館に行く約束をしてますからね!!」

質問された順に返すと、日生先輩はいつも通りの笑みを浮かべて「若ってかわいいね」と言ってきた。
ああもうなんですか。一体なんなんですか。俺に恨みでもあるんですか。……とかなんとか、言いたいことはたくさんあったけど、とりあえず、

「それを今現在言う必要はあるんですか! あと、日生先輩、俺は全ッ然かわいくないですから! かわいいのは紗夜ですから!」

全力で言い切った俺は、ぜーはーと肩で息をする。
そんな俺を見て、それでも懲りないのが日生先輩である。

「何? ちゃっかりお嬢にプロポーズ? ……というか、お嬢はかわいいというよりは、『綺麗』とか『美しい』っていう言葉の方が似合う気がするよ。ねえ、お嬢?」

「そうですね……私も、不本意ながらほかの方からはそう言われることが多いです」

「かわいいという言葉は、若が似合うと思うよね?」

「ええ、そう思います。ゆずはかわいいですから」

…………なにこの会話。
なにこの放置羞恥プレイ。

穴があったら今すぐにでも入りたいのですがどうですか。

「……俺もう(羞恥で)死にそう…………」

あまりにも恥ずかしくて真っ赤になった顔を覆ってしゃがむと、ぽんぽんと誰かの手が俺の頭を撫でた。
……ああこの感触は……日生先輩だ。すぐに落胆。
一瞬でも慰められた気分になった自分がバカらしい。

「大丈夫だよ。そのくらいで死なないから」

「……そういう問題じゃないです……」

「あはっ。かわいい」

「かわいくねーって言ってんじゃないですか!」


日生先輩の馬鹿やろー!!
そう、言いかけたとき、

――吐息が耳に、触れた。
びくんと跳ねる身体。


「褒め言葉は、きちんと受け取っておくものだよ?」

耳朶すれすれで囁く唇。
それはすぐに離れたけれど、俺の、おそらく首筋や耳まで達している赤みは、しばらくしなければ引きそうにもなかった。

「……あんたなんて嫌いだ」

「嫌いで結構。僕は好きだよ」

その言葉は、紗夜にやれよ。





本当、俺のどこがかわいいんだろうと悲しく思う。
『かわいい』も一応褒め言葉ではあるんだろうけど、男にとってそれは=褒め言葉ではないというのが、この先輩にはわからないのか。
日生先輩の場合、七葵先輩とはまた違う意味で、どこまでが本気でどこまでが冗談なのか判断がつかない。

生徒会だったころも、こんな感じだったのだろうか。
……いや、ここまで酷くはなかったはずだ。
今回は紗夜が乗ってきたのもあったしなあ……。

頭上で交わされる、紗夜と日生先輩の会話をBGMに、なんやかんやであれこれ考えていると、いつの間にか熱(ほて)りは治まっていた。

すっくと立ち上がって、

「蒼のとこ行かないの、紗夜」

と普段どおりに尋ねると、紗夜ではなく日生先輩が「あっ、復活した」と先に反応したがそれは無視。

「そうですね、このまま待っていてもしようがないですし……。臥待堂に行きましょう」

紗夜はにこりと微笑んだ。
ああこの微笑みだけが俺のミューズだ。

「ねえ、僕も行っていいかな?」

そこへいらぬ一声。

「その薔薇、誰かに渡しに行くんじゃなかったんですか」

「うん? ああ……」

つっけんどんに応えると、日生先輩は、珍しく苦く笑った。

「若、お嬢。僕がこの薔薇を渡したい人はね……もう、いないんだ」

静寂に風の音。
赤い薔薇の花束が揺れる。
暗く伏せられた、沈んだ瞳。
その意味深い言葉に、俺は対処することができなかった。
どう捉えていいのかわからなかった。
傍らで、紗夜が代わりに「……すみません、いらぬ詮索をしてしまい」と謝ってくれたのに、それでも俺の開(ひら)けた口から出る言葉は、迷子のままだった。

「それじゃ、行こうか!」

俺と紗夜の手をとって、日生先輩は歩き出す。
その口調は、先ほどとは対照的に、ひどく明るかった。





こんな感じで紆余曲折。
そうして辿り着く臥待堂で、新たな物語が幕を開ける――。


 


▼ 第二章、ユメミルセカイより。序盤。
  なんだか妙なフラグが立ってしまった……。
  そしてゆずいじり(笑)。2011/10/16
  material:phantom
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