死神と少女→蒼と黒と、 | ナノ
嘘吐きな盗賊とお姫様 05-2
※ 『嘘吐きな盗賊とお姫様』のゲームの結末とは大幅に異なります。
※ 今までのものより輪をかけてBLD臭がします。
※ なのでお読みになるのは自己責任でお願いいたします。









































『そう、僕は盗賊だ』





本当はまだここにいたいんでしょう?!
そんな顔をして何を言われても、俺は絶対に納得しません。

そう強く声を上げると、彼は困ったように笑った。
ボートのエンジンが一際大きく唸る。
今この腕を放せば、もう彼とは二度と会えない。
日常は、再び何事もなかったかのように回帰するだろう。
それはそれで、平穏無事なものかもしれない。
だけどもちろん、俺がそんな日々を選ぶわけがなかった。

「っゆず?!」

飛び乗った。
と、同時にボートは動き出した。

「自分の気持ちにまで、嘘をつかないでください。つかなくていい嘘を、つかないでください」

嘘をついてほしくない。
それは俺の本心だった。
でも、と。腕を掴む手が力む。
きっとあんたは、

「……って言っても、嘘をつき続けるんでしょうね」

大当たり、と彼はいつもの余裕のある笑みを浮かべた。
猛スピードで海の上を走るボートのせいで、冷たい空気が頬に当たり、少し寒い。
運転手は一応いるのだろうが、しかしボートは止まらなかった。彼も、止めなかった。
はあ、とため息をつく。
止まらないボートに関しては、もうこうなればどこへでも付き合ってやると覚悟を決めたから脇に置いておく。
今俺がため息をついたのは、『日生先輩』に向けてだった。

「――俺のところに来ればいいじゃないですか」

きょとん、と目を丸くする。

「…………え、……それ、本気、若」

そして、珍しく焦からか言葉を切る。

「本気も本気ですよ、『先輩』」

そう言い切る。
はっきりと。
しっかりと。

彼は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で硬直した。
俺はそんな彼に、追い討ちをかける。

「これは罰だ。そう、言ったでしょう?」

さらに駄目押しとしてにこり、と笑う。
『日生先輩』は俺をじっと見つめ、そうしてやがて諦めたようにため息をつく。
そのあとで、仕方ないなあという風に笑みを浮かべてゆっくりと両手を挙げてみせた。

「……降参。若の勝ちだ」


 


ボートは穏やかに、再び港へと戻っていた。
日生先輩には共謀者がいたようで、その最中彼(彼女かもしれない)に電話をかけた。
その電話によると、もう港に紗夜たちはいないとのことだった。
共謀者の彼が、日生先輩から預かっていた時計塔の鍵を渡したためだと言う。

「……時計塔?」

首を傾げると、日生先輩は「そうだよ。時計塔」と頷く。
この人は意地が悪い。
俺が聞きたいのはそういうことじゃないのに。
そんな俺の表情に気づいたのか、先輩は苦笑した。

「僕はね、彼女にかけられた魔法をとくことができるんだ」

『彼女』とは言わずもがな紗夜のことだろう。
聞き出したのはいいものの、それ以上のことがわからず、俺は眉根を寄せた。
魔法。
魔法とは何のことだ。

わからなくていいよ、と日生先輩は俺の頭を撫でた。
思わず日生先輩を見る。
彼はとても、優しげな顔をしていた。
嘘も偽りもない、優しい表情を、していた。
子ども扱いしないでください、と。
いつものように反抗しようと開いた口を噤む。
どういう反応をすればいいのかわからず、俺は面を背けることしかできなかった。

「――ねえ、ゆず」

港が近づいた。
ぽつりぽつりと並ぶ街灯がぼんやりとした明かりを灯している。
吹く風は、先ほどにもまして冷たい。

「僕は、すぐにでも逃げてしまうかもしれないよ?」

日生先輩の顔を見ることはできなかった。
彼はきっと、切なげなそれをしている。
俺はもう、この人のそんな顔を、見たくない。

「そのときは、俺が何度でも探して見つけ出して。また、連れ戻します」

ボートが港に着く。
俺は今度こそ振り返り、日生先輩の手をきつく握った。

「どうして?」

その手を引っ張って、ボートから上がる。
やがてボートはエンジン音をけたたましく立てて、港から消え去った。

「わかってるくせに」

俺は言う。
もうあんたは、ずっと前からわかっていたはずだ。
俺があんたに抱く思いも、全て。

いなくなってほしくなかった。
ここに、いてほしかった。
それが紗夜の傍だとしても構わない。
俺の傍にいなくても構わない。
ただ、手を伸ばして触れられる距離にいてほしかった。
消えてしまうことに、耐えられなかった。
そんなこと、嫌で、嫌で嫌で。
俺の心を散々引っ掻き回して、それで自分は格好つけていなくなるなんて。
そんなの許せない。
なんで俺だけ。
俺だけが、いつもあんたのことで、あんたの一挙一動に反応して。
ずるい。
ずるい。

こんなこと、認めたくなかった。
認めればそれは、俺はあんたがいないと生きていけないということになったから。
だけど、認めなければあんたは、このままいなくなってしまっていた。
そうでしょう?

「――俺は、あんたのことが好きだ」

好き。
心がひかれること。ひきつけられること。

そうだ。
『好き』だ。
どんな意味でもいい。
どんな感情でもいい。
俺は、あんたが好きだ。

「だから、俺はあんたを逃がさない」

どんな答えが返ってくるのか、きっとわかっていたはずなのに、彼は大きく目を見開いた。そしてその後で、微笑みを浮かべた。
それはそう、さっき俺の頭を撫でたときと同じような、優しい優しい、笑み。

「そっか。光栄だね、若にそう言ってもらえるのは」

彼からの返事がなくてもよかった。
なにより、はじめから期待などしていなかったのだから。
俺は、彼が遠野紗夜を愛していると知っていたから。



だからこそ、彼が次にこう言葉を紡いだとき。
俺は、本当に泣いた。



「――でも僕は、君のことを『愛している』よ、ゆず」



これは僕の勝ちだね、と。
彼は笑って、涙を流す俺を抱きしめた。





▼ つまりは日生先輩が紗夜に告白したりしていたのは、ゆずが自分の感情にあたふたするのを傍から見たかったということでしょうね(笑)
  ってことで、another ENDでした!
  日生先輩が好きだから、『いてほしくて』というのがこのような結末を書いた理由の一つですが。もう一つは、日生先輩がいなくなったあとのゲームでの紗夜をここでは見たくなかったからです。彼女には、もう苦しんでほしくない。幸せになってほしい。ゲームの中では先輩はいなくなってしまうけど、夢小説の中ではこんな結末があってもいいんじゃないでしょうか。
  2012/08/07(2012/10/25up)
  material:phantom
| →
戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -