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01 始まりのくちづけ

ある日の放課後。
音也と御影の二人は、林檎先生に今度の小テストの告知プリントを刷ってくるように言われた。
りんご先生曰く、今回の『小テスト』は、二人一組で行うワンフレーズの作詞作曲。
ワンフレーズとは、厳密に言うと句だが――このテストではその定義を広くしてあるそうだ。
例えば、それこそ単語の集まりでもいいし、一文でもいい。もしくは、歌でいうAメロでもいい。
それは確かに、本来の『ワンフレーズ』の正確な定義ではない。
しかし、彼女は『ワンフレーズ』をカタイ考え方で受け取らず、柔軟な感性で受け取ってほしいと言う。

『『ワンフレーズ』をどう取るか。それも、作曲家やアイドルには必要なことなのよっ!』

……けれどそんなテストの詳細を、皆に知らせる前にこちらへ明かしてしまっていいものなのだろうか。
何か考えがあってのことなのだろうけど……。
そう思いつつも、結局御影と音也はプリントを刷り、職員室に居た林檎先生を探し出してその束を渡し――廊下へ出て歩き出すまで口に出すことはなかった。

「……どうしようか、今回のテスト」

茜色に染まる廊下を歩く。
もうこんな時間なのかと、御影は頭の隅で思いつつ頭の後ろで腕を組んだ。

「ローテーションでペアを選ぶから……、おれは音也とだよな?」

そして尋ねる。
が、音也は進行方向に対して常にななめ下の廊下の床に視線を固定して歩いているままだ。その真剣な目からして、おそらくこの小テストのことを考えているのだろう。もしかして、もう作詞できてたりして。
音也を我に返らせるため、数十秒間じっっっと彼を見つめたが効果なし。
音也の目の前でて振っても、だ。
ある意味ものすごく重症だなとしか言いようがない。

「おーい。音也ー」

両手でメガホンを作って耳元で名前を呼ぶと、

「! え、えっ、な、なに?!」

肩をびくりと震わせて足を止めて、ようやくこちらに顔を向けてくれた。
はあ、と脱力。息を吐く。
一度集中モードに入ったら周りが見えなくなる。それはいいところでもあるし、欠点でもある。
しかしそんなことも、音也のまんまるい目がぱちくりするのを見たら引っ込んだ。

「――綺麗、だ」

「……え?」

思わず心の声が漏れてしまった。
音也は怪訝そうに小首を傾げる。

「……いや、音也の目は綺麗だなって思ってさ」

ふ、と口元を緩めて呟いた。
どこまでも真っ直ぐで、どこまでも純粋な瞳。
赤い赤い、炎のような――しかしどこか優しい強さを感じる瞳。

「――“きみの目を見つめた”」

「へっ、あ、ちょっ……御影……!」

『目が綺麗』発言に、ただでさえ顔を真っ赤にさせていた音也の、頬に手を添え、顎のラインをそっと撫でる。
音也はさらに顔を赤くした。まだ赤くなる余地があったのかと驚く。
目の行き場に困り、視線を彷徨わせているそんな音也に御影はにっこりと微笑んだ。

「“綺麗な綺麗な、赤い瞳”」

そして、音也をぐい、と引き寄せて、耳元で囁いた。

「“おれは、その瞳が好きだ”」

吐息が音也の耳に触れる。
その唇も、感じた気がした。
色香漂い甘く誘う声に、音也は思わず堕ちてしまいそうになる。
そんな音也を察してか、御影はすぐに音也を放した。

――名残惜しい。それから、悔しい。

手が届くんだ。
君はそこにいる。
それなのに、君はどうしてそんなふうに――

「……こんなのでどうだ?」

「っうん、えっと……、だ、だめだ、絶対!」

御影の声にハッとして、キョドった返事をしてしまった。
しかし、先程のフレーズで今回のテストをパスするというのは、音也にとってはいただけなかった。
あんなもの、みんなの前で歌ったら――。
恥ずかしいじゃないか。

「……音也?顔真っ赤だぞ?」

首を傾げて、けれどその原因がわかっているらしくどこかニヤニヤしながら笑う御影。
ああもう悔しい。なんで俺ばっかり、こんな思いをしなくちゃならないんだ。
どうして俺ばかり、こんなに鼓動が高鳴るんだ。
全部全部、君の所為。
御影が悪いんだよ。

「…………おと、や?」

じっと御影の目を見つめると、御影は居心地が悪そうにじり、と後ろに下がった。
――やっぱり、俺なんかより御影の目のほうが、ずっと綺麗だ。

「……っ」

手を伸ばして腕を掴み、引き寄せて顎を上げ、その唇にキスを落とす。
そして腕の中に、御影を閉じ込めた。
小さい体だということに、今更気づく。
ああ、そうか、御影は、女の子だった。
男装している姿があたりまえすぎて忘れていた。
でも、男の姿でも御影を好きだった俺って……。

ぎゅうと強く抱きしめると、「痛いからやめろ音也」といつもの口調で返される。
しかしその耳が真っ赤になっていたのを音也は知っていた。


 始まりのくちづけ 


▼ …………実に読みにくい作品になってしまい、申し訳ありません。
  三人称をベースにしつつも、途中から御影視点→音也視点となっていたので、違和感を覚えた方もいると思います。
  それでは、こんなものでよければもらってやってください!
  2011/09/03〜2013/01/31(自作発言等禁止)
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