Harry Potter And A Princess Of Twilight | ナノ
to end


――わたしたちは進まなければならない。
例え、どれほどの犠牲を払ったとしても。

――魔法界の最後の希望であるハリーを、なんとしてでも守り抜かなければならない。
例え、どれほど誰かが傷ついたとしても。

――それが、わたしの。
否。わたしたちの、役目なんだ。





ヴォルデモートが完全復活を遂げたというのに、どうしてこうも、呑気に結婚式なんて
やっていられるのか。
さすがのわたしでも、ウィーズリー夫妻たちの正気を疑った。
ううん。こんなときだからこそ、こういうことをやるんだということは、わかってる。
わたしはただ、この行き場のない気持ちを、準備をしながら楽しく笑い合っている彼らに
八つ当たりしているだけだ。羨ましいだけなんだ。

セブルスには、もう会えない。

ハリーの家を出て、すぐに死喰い人に襲われたあの夜。
リーマスは、騎士団のこの情報が、敵に漏れていたと言った。

それを聞いて、わたしはふと、セブルスを思い出した。
彼は、今回の作戦に参加していない。
ハリーのことを邪険にしているから、ムーディがわざと外したのかもしれない。
しかし、彼が、居れば助けになる魔法使いであることには変わりはなかった。

ダンブルドアが信頼していた魔法使い。
だから彼は、騎士団を裏切らない。
………違う。そうじゃない。
セブルスが信じているものは。ダンブルドアが信じたのは。
――リリーなんだ。リリーを信じているセブルスを信じたのだ。

わたしには何も教えてくれなかった。

肝心なことを、何も。

今。このときでさえ。

わたしは何かを忘れている。
忘れているということを、忘れている。
そんな気がしてならなかった。

――もうホグワーツ(あそこ)は闇の帝王の根城だ、と。
そう、リーマスが言った。

――再び戻って、わざわざ危険を犯すことはするな、と。
そう言われた。

セブルスに会いたかった。

わたしが忘れているものはなに?

怖くて恐くて、今まで聞けなかった。
訊いてしまえば、わたしはもう、今までどおりに彼と付き合える自信がなかった。

レインやロウェナも大丈夫だろうか。

あの二人は元スリザリンで、そのうえで闇側に行くことを拒んだのだから、
余計にヴォルデモートに狙われていないだろうか。
特にレインには妻と子どもがいる。
人質に取られたりしていないだろうか。
ロウェナは………シリウスのことを想って、まだ泣いていたりしないだろうか。

心配で心配で、仕方がない。

「……杏樹、大丈夫かい?」

隠れ穴。そのウィーズリー家の中で、わたしに与えられた一人部屋。
そこへリーマスがやってきた。
彼が扉を開けた時、微かに外の騒音が耳に入った。
楽しそうだなあ。

「……これが、大丈夫に見える?」

ベッドに寝転がって、布団を抱き枕のように抱いていた。
それを顔に押し付ける。
泣き顔なんて、見られたくなかった。
……子どもみたいに。
もう、子どもなんて年じゃないんだから。

「はは。大丈夫じゃないよね、そりゃあ」

リーマスは、学生時代の口調で、そうおどけた。
懐かしかった。あの日々が。

「……ごめんね、リーマス」

どうしようもなく謝りたかった。
わたしがちゃんと、しっかりしなきゃいけないのに、犠牲になんて、慣れているのに。

するとリーマスは、きょとんとした様子だった。

「え? なんで杏樹が謝るんだい?」

そしてそのまま彼は続けた。

「確かに、君は僕たちより大きな力を持っていて、僕たちがそれに頼っているのは確かだ。
――でも背負っているものは、君も僕らも一緒だよ。
救おうとしているものも、一緒さ。……違うかい?」

酷く優しげな声音に、涙が溢れた。
嗚咽が出そうになって、こらえた。

「違わない……」

「それに、杏樹は杏樹さ。無理に誰かを救おうとしなくていい。救える誰かを、救ってほしい。
僕らは君のことが大好きだから、今のように傷ついている君を、見たくないんだ」

「………、そんなの、わたしだって……! ……リーマスたちに、傷ついてほしくないよ………」

声が、震える。

だから、わたしがしっかりしないといけない。
だからわたしが、みんなの分も頑張らなきゃいけない。

「そうじゃない。だからこそ、皆で力を合わせてやるんだ。
君だけの力より、僕たちの力も合わせたほうが、その強さは明らかだろう?」

「………………」

リーマスの言うことは、尤もだった。

誰かに傷ついてほしくないのも同じ。
犠牲を出したくないのも同じ。
救おうとしているものも、同じ。

わたしだけ、こうやって立ち止まっているわけにもいかない。

ならば。

前へ。
未来を切り拓くために、
この先へ。

進んでいくしか、ないじゃないか。


「………………………うー……いやだな、こんな弱音」
誰にも聞かれたくなかったんだけど。

そう言うと、リーマスは黒い微笑を浮かべた。

「今更だよ。いつも聞いてるじゃないか」

そりゃあもう真っ黒。
いつまでもぐだぐだ悩んでるわたしに向かって、言外に早く結婚式に参加して来いと
言っているような。

「ははは……そうでした。――……ありがとね、リーマス」

服の袖で涙を拭い、彼に対して笑顔を浮かべる。

「あぁ」

リーマスも優しく微笑んで。

「それじゃあ、またあとで会おう」

「うん」

部屋を出て行った。





――その後。

結婚式の会場は、死喰い人に襲われた。





色んな人が死んだ。

知り合い。友人。恩師。
見ず知らずの一般人。

マグルも魔法使いも、関係なく。

多くの人が死んだ。

――それでも。

それでもわたしたちは、前へ進まなければならない。

心を何も感じることのない冷たい氷に変えて。

ハリーも守り抜く。

それが、今やるべきわたしたちの役目。わたしの役目。

だからもう、これからは。

決して。立ち止まっては、ならない。

立ち止まることは、許されない。





in ホグワーツ魔法魔術学校

そして。
時系列は変わり、おそらくハリーや杏樹たちが逃亡生活を強いられているころ。

「あー、こんちくしょー! 
あンの根暗陰険ヤロー、ぶん殴ってやらねぇと気が済まねー!!」

薄い水色の、若干はねた髪。
その男にしては長いそれを、頭の低いところで一つに束ねている、整った顔立ちの男。

彼は荒っぽい足取りで、校長室へと向かっていた。
小脇に挟んだ重要書類も、力んだ手によってぐしゃりと皺が寄っている。
眉根を寄せて、授業中なため誰もいない廊下を、盛大に靴音を響かせながら大股で進み、てっぺんの校長室への螺旋階段も、カンカンと苛立ちを露わにしながら登っていく。

「出てこい! ロリコン!!」

校長室の前に着いた彼――レイン・フォーマルハウトは、
その扉をガンガン叩きながら怒鳴る。

「てめーが新校長だと?! どういうことだ!」

そう。先ほど大広間で、メディアも呼んで、盛大に発表があったのである。
もちろん生徒や他の教諭も同席している。
スリザリン生は歓喜に熱狂し、それ以外の寮生は大いに絶望した。
もう、この難攻不落の居城、ホグワーツ魔法魔術学校は、闇の手に落ちたことも同然だった。

さすがにやりすぎだ、と。

学生時代からのセブルスの友人であるレインは思う。
彼が、騎士団と死喰い人の二重スパイであることは知っている。
ヴォルデモートに心酔していることを示すには、こうすることがベストだったのかもしれない。
が、しかし。
こうなってしまえば、それ以降の騎士団としての対応がしにくい。

一体、セブルスはどちら側なんだ?
闇か? 光か?
こいつは何を考えている?
かの闇の帝王でも見えないその心で、何を思っている?

疑念が渦巻いた。
それをどうしても、今、払っておきたかった。

――なあ。お前は、俺たちの仲間だよな?

「おい! なんとか言えよ! セブルス!!」

ここにいるのは解っていた。
追跡魔法だ。
セブルスは校長に就任したという発表のあと、レインの問責から逃げるように広間を出て行った。
その際に見逃しては困るため、魔法をかけていた。
誤魔化されないように、靴跡と個人が持つ独特のオーラの残照で追うことができる、
レインオリジナルの追跡魔法。

「セブルス!!!」

自分の声が、だんだんと悲痛に変わっていくのがわかった。
答えてくれない虚しさが。裏切られたような悔しさが、胸の中に広がっていった。
強く握りこんだ拳が、赤く腫れて痛かった。

「くそっ!!」

そして再び、腕を振り上げた時。

「止めなさい」

冷静な、アルトの声が聞こえた。

艶やかな、肩口までの黒髪。紫色の冷涼な瞳。
己とセブルス。両方の友人である、ロウェナ・ウェルクスが、腕を掴んでいた。

「頭を冷やしなさい」
――Aguamenti(アグアメンティ)。

とか言いつつ、言葉通り冷たい水を杖の先から生み出して、
レインの頭へぶっかける。

「………………」

やがて数秒で頭が冷える。

「……セブルスも、彼なりに考えがあるのよ」

ロウェナはただ淡々と、しかし感情を抑えるように言った。

「……そう、だよな………」

呟いて、レインとロウェナは校長室の前から姿を消した。


▼ 映画、最終章part1。
  2010/12/27(2011/08/08up)
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