#08 後悔
『おれが話したら、あんたおれに協力してくれるか?』
『おれが、あんたの生まれて育った都市の心臓に、ナイフを突き立てることに協力してくれるか?あの都市を救うんじゃなく、破壊してしまうことに協力してくれるか?血清なんかいらない。寄生バチがいるなら利用して、内部からNO.6を混乱させたい。いつも安全圏でのうのうと暮らしてきた連中が、恐慌し、逃げ惑い、自滅していくさまを見物していたい。おれが考えているのは、そういうことだよ』
『あんたは、NO.6を愛し、おれは憎んでいる。だからな……おれたちは、いずれ敵になる』
『――天然だけじゃなく、妄想癖まであるのか。何が第三の道だ。』
『あんたは逃げ道を探しているだけさ』
『決して一つにはなれない』
『――いいかげんに黙れ』
『あんたの話を聴いてると反吐がでる』
『こんなに喋りだってわかってたら、ここには連れてこなかったのにな』
(ネズミと紫苑と共に、人混みを縫って、両脇に店の並んだ道を歩く。)
(さすがにあれは、言いすぎだよと心の中で呟いた。
でもきっと、二人とも口論になったことに後悔はしていないはずだ。
ネズミの口から出た、その言葉。
紫苑が“喋り”でも、絶対にネズミは彼を助けただろう。
逆に、紫苑はネズミがどんなところに居ても、見つけ出し救っただろう。)
(運命の赤い糸とは、よくいったものだ。)
(それはまさに、この二人のことを指している。)
(……紫苑もネズミも、過去のことに後悔はしていない。)
(揺るぎない何かを持っていて。おそらく全て、わかっているから、)
(4年前に戻っても、ついこの間に戻っても。その選択は、変わらないと。)
(強いんだ。
それなのに、 わたし、 は、)
(ネズミの超繊維布のマントが、ひらりと翻る。
紫苑の白い綺麗な髪が前を行く。
人混みの中、懸命にそれを追う。
大きくなった背中に、嗚呼、男の子なんだなあ、とか。ぼんやりと思う。
群衆に紛れて、見失いそうになる。
人に、酔いそうになる。
苦しい。
手を伸ばす
届かない、
もういちど、
届くはず は 、 なか った。)
(――わたしって、邪魔者なんだ、よ。)
(雑踏の中、足を止めた。
酒臭いおじさんにぶつかられて、怒鳴られた。唾が飛んだ。汚い。
周りの人間は、素知らぬ顔で通り過ぎるか、下卑た笑みを浮かべているかのどちらかだ。
ここの人たちは腐っている。
だけどこれが、真実で事実だ。
これからわたしは、ここで、生きて行かなくちゃいけない。)
(――だれと?)
(紫苑とネズミ?)
(ううん違う。)
(独りで。)
(独り。そんなの、生きていけるわけない。)
(邪魔よ、あんた。
娼婦の女の人に乱暴に肩を掴まれて、路地に押し込まれた。
臭い。)
(邪魔なのに、わたしは、
邪魔だから、)
(――わたしはどこに、行きたかったのだろう。
『連れて行って。わたしも、連れて行って』
そう4年前、ネズミに言ったはずだった。
NO.6以外のどこかへ、どこへでもいい、行きたかった。
息苦しい場所はいやだった。
辛くて悲しい場所はいやだった。
だから逃げたかった。飛び出したかった。)
(……そのはず、なのに。
そのはず、だったのに。)
(どこに行きたいのか、わからない。
――どこで生きたいのか、わからなかった。)
(暗い路地裏の、所々剥がれたコンクリートの壁に背中を預けて、空を見上げた。
曇り空。
灰色。
もう雪でも雨でもいいから、降ってしまえばいい。)
(――わたしの居場所は、どこ。)
(ずるずると汚れた地面にも構わず座り込んで、頭をうずめた。)
*
(気づかないんだろうなあ、きっと。)
(わたしなんか、いらないんだよ、きっと。)
(わたしだって、邪魔なんてしたくないんだよ。)
(いなくなれば何の問題もないでしょ?)
(迷惑だってかけたくないし、)
(だったら。ねえわたしは、なんのためにここにいるのかなあ。)
▼ 相変わらず思考が飛びまくった文章ですみません……。さぞかし読みにくいだろうなあと思ってます……ごめんなさい……。
要するに、夢主である杏樹は、あまりにも紫苑とネズミが運命共同体みたいなものに見えて、自分の居場所を見い出せないでいるということです。だからこんなふうにネガティブ思考になっているわけです。(初期設定では、NO.6夢主は『ちょっと病んでる感じ』でしたから;;)そういう意味では、過去をある意味後悔しているのは、杏樹なのではないかなあと思います。
冒頭のネズミの台詞は、NO.6、2巻より抜粋してます。2011/07/28up
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