NO.6→Secret Selene's Story | ナノ
#03 4年後
[ ネズミが紫苑を連れ出してから数時間後 ]


――とあるマンション 杏樹の一室


(あれから、4年が経った。紫苑と共に特別コースへ進むことが許されていたわたしは、あの一件によりそれを禁じられ、『クロノス』から追い出された挙句『ロストタウン』へ移住した。そして、自分の意思で、紫苑やおばさん――紫苑のお母さんと暮らすことを止めた。そんな、ある日のことだった。)


(紫苑から、今日沙布に会ったことと、彼女が明後日、留学することを聞いた。
IDカードで電話をしようかと思ったけれど、もう夜も遅いし、明日にしようと思って、その日はそのまま眠った。)


そう、運命の日は、この次の日だった。


(朝起きてしばらくしてから、沙布に連絡を取った。『留学、頑張ってね。応援してる』そんな当り触りのないことと、『紫苑とどうなった?』と他愛のない話。からかってからかわれて。同年代の女の子と話を交わすことが、こんなに楽しいことなんだということを、わたしは久しぶりに知った。『また2年後は会おうね』そんな約束を取り付けて。このときはまだ、知らなかった。お互いに、知るはずもなかったんだ。壮絶で悲しい運命が、そこに歩み寄っていたことを。)


(その、夜。
 部屋の窓を、コツコツ、と叩く音がした。どうせ石か何かが窓に当たっているのだろうとそのまま無視をしていたが、その音は止まない。ああもうなんなんだと、重い腰を上げて窓に近づくと、下の方に鼠がいた。普通は保健衛生局が駆除しているはずの、鼠。――あの姿が頭の中を過った。いや、気のせいだろうと思い、カーテンを閉めようとしたとき。)


(窓を挟んだ向こう側。そのベランダにフッと、影が現れた。視線を上げる。
――人だ。黒っぽい装束に身を包んだ、フードを被っていても垣間見える藍色の髪――)


「………!!」


(一気に、彼と出会ったあのときの映像がフラッシュバックした。
ああ、ネズミだ。ネズミが来てくれた!!)


「よお。久しぶりだな、杏樹」


(わたしは窓を勢いよく開け、彼に飛び付いた。)



▼ 特に何が変わっているのか尋ねられると、ものすごく困るのですが……;;
  ともあれ三話です。
  2011/06/12(2011/07/28再up)
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