#02 別れ
「――もう行っちゃうの、」
「……起きてたのか」
「答えてよ、ネズミ」
(――このときの彼女は、先程と違い、奇妙なまでに酷く、異常なまでに、大人びていた。どれがこの、杏樹という少女なのだろうと、どうでもいいことさえ考えてしまう。)
「わたしを、連れて行って」
(杏樹の問いには答えず、雨雲の去った、澄んだ群青の空。夜も更け切り、星が顔を見せた、その空に臨むように。俺はただ開け放たれた窓を通り過ぎ、ベランダの柵に足をかけ――)
「……は?」
「わたしには、居場所がないの」
「…………」
「わたしは紫苑の義理の兄弟でもないし、幼馴染みってわけでもない。――じゃあなんだっていう話になるんだけど、」
(振り返って、ベランダに足を下ろす。少女は、切なげに困ったように笑う。)
「わたしは、はじめからここにいたんじゃないんだ。わたしは、ここにいなかったはずの人間。――ううん。人間でもないや。……この場所は、この家は、この世界は、確かに今、わたしの居場所で。それなのにここは、わたしの居場所じゃないんだ」
「――そんなことは……ない、だろ。杏樹…あんたの性格じゃあ、友達だってたくさん……」
「そうじゃない。そうじゃ、ないんだ。わたしはここにいるのに、わたしはどこにもいない。――わたしを、『わたし』として見てくれる居場所が欲しい」
(おれを見ているはずなのに、おれを見ていないその瞳は、一体何を見ているのだろう。何が、見えているのだろう。)
「……それでも、だめだ。あんたはまだ、ここにいろ」
(そう言うと、杏樹は悲しそうに眉を下げた。)
(だから、彼女をこんな顔にさせたくなかったおれは、こう続けた。)
「――……4年。4年が経ったら。迎えに行く。……だからそれまで、待ってろ」
「………、うん、わかった。待ってる」
(そしておれは、星々の瞬く夜空へと飛び降りた。)
▼ 漫画を読んだ勢いで。夢主はMissing連載『君だけの物語』の女主、杏樹をモチーフにしてます。雑すぎる文章ですが、仕様です。読んでくださりありがとうございました! 2011/06/12(2011/07/28再up)
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