NO.6→Secret Selene's Story | ナノ
#02 別れ
「――もう行っちゃうの、」

「……起きてたのか」

「答えてよ、ネズミ」


(――このときの彼女は、先程と違い、奇妙なまでに酷く、異常なまでに、大人びていた。どれがこの、杏樹という少女なのだろうと、どうでもいいことさえ考えてしまう。)


「わたしを、連れて行って」


(杏樹の問いには答えず、雨雲の去った、澄んだ群青の空。夜も更け切り、星が顔を見せた、その空に臨むように。俺はただ開け放たれた窓を通り過ぎ、ベランダの柵に足をかけ――)


「……は?」

「わたしには、居場所がないの」

「…………」

「わたしは紫苑の義理の兄弟でもないし、幼馴染みってわけでもない。――じゃあなんだっていう話になるんだけど、」


(振り返って、ベランダに足を下ろす。少女は、切なげに困ったように笑う。)


「わたしは、はじめからここにいたんじゃないんだ。わたしは、ここにいなかったはずの人間。――ううん。人間でもないや。……この場所は、この家は、この世界は、確かに今、わたしの居場所で。それなのにここは、わたしの居場所じゃないんだ」


「――そんなことは……ない、だろ。杏樹…あんたの性格じゃあ、友達だってたくさん……」


「そうじゃない。そうじゃ、ないんだ。わたしはここにいるのに、わたしはどこにもいない。――わたしを、『わたし』として見てくれる居場所が欲しい」


(おれを見ているはずなのに、おれを見ていないその瞳は、一体何を見ているのだろう。何が、見えているのだろう。)


「……それでも、だめだ。あんたはまだ、ここにいろ」


(そう言うと、杏樹は悲しそうに眉を下げた。)
(だから、彼女をこんな顔にさせたくなかったおれは、こう続けた。)


「――……4年。4年が経ったら。迎えに行く。……だからそれまで、待ってろ」

「………、うん、わかった。待ってる」


(そしておれは、星々の瞬く夜空へと飛び降りた。)


▼ 漫画を読んだ勢いで。夢主はMissing連載『君だけの物語』の女主、杏樹をモチーフにしてます。雑すぎる文章ですが、仕様です。読んでくださりありがとうございました! 2011/06/12(2011/07/28再up)
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