NO.6→Secret Selene's Story | ナノ
#12 -Birthday!
(外に出ると、ひんやりとした空気が肌に触れるのがわかった。
この時期は、夏の暑さがまだ残っているイメージがあるのだけれど、さすがに真夜中を過ぎれば涼しいということなのだろう。)
(普段、カランやリコが一緒に遊んでいる公園は、もちろん夜だからかひっそりと静まりかえっていて。昼間の彼女たちの楽しげな笑い声が、まるで嘘のように感じた。
実はそこには、誰も遊びになんて来てないんだよ。この世界には、君たちしかいないんだよ。
そんな錯覚さえ、起こした。)
(それほどに夜の西ブロックは、静寂が支配していて。もうこの地区全体が眠りについているとしか思えなかった。)

「――周りばっか見てないで、空を見ろ、空を」

(そうネズミに促され、杏樹は紫苑と共に空を見上げた。)

「……!!」

(――ああ、なんて、)
(なん て、)

「綺麗……」

(漏らしたのは紫苑だった。)
(わたしは言葉を零すこともできず、ただ、目を見開いて幾億もの星々が煌めく、深い藍の空を見ていた。)
(上を向いて、首が痛くなるのも気にしなかった。この光景を、こんなにも美しい景色を、目に、脳裏に、焼き付けておきたい。)

(世界は、まだ。捨てたものじゃないと、思えた。)

(薄青の空は、深い深い藍色の絵具をぶちまけたように、隅々まで『夜』に変わる。
そこに瞬く、明るさも色も違う星は、世界中のわたしたち人間の数と同じくらいか、それ以上だと感じる。わたしたちは、星と、一緒だ。星は、ここからの距離も、等級も、色彩だって、違う。わたしだって、そう。)
(さすがに首が疲れてきて、視線をもとの高さに戻すと、遠くに、NO.6の壁が見えた。
その中はまだ白く光っている。藍と白の境界で、ぼんやりと靄のように二つが混ざって見えた。あの壁の向こうでは、きっとこの星空は見えないのだろうと思うと、ざまあみろという気持ちになった。一度、この、ここに本当に存在するべきものなのか、本当に存在してもいいのかと疑ってしまうほどの神聖で煌びやかで心洗われる景色を、NO.6の内側の人は見て見ればいい、と思った。それを見た上で、「わたしたちはこれでいいのか」と、問いかけてみたいと思った。)

(わたしたちは、変えなければならない。
NO.6を。その内側で住む人々を。)

(できるできないは関係ない。)
(するか、しないかだ。)

(誰かかしなければ、未来永劫、きっとこのままだ。
むしろ今より酷くなる。それは目に見えているのだ。
だとするなら、誰かが、誰かが成さなければならないのだ。誰かがしなければ、絶対に何も変わらない。一粒でも変わらない。)
(ほんの少しでもいい。わたしたちがすることで、変えられたら、)
(きっとあとは、ドミノ倒しのように変わって行くだろう。何もかも、変わらないことは許されなくなるだろう。)

「――ネズミ、」

(紫苑がぽつりと呟いた。それは話しかけているようにも、独り言のようにもなぜか、聞こえた。)

「……ぼくは、この星空をずっと、永遠に、忘れない」

(声と握った拳を震わせて、上を向いたまま、何かに誓う紫苑を見て。
その懸命に堪えるように、固く引き結ばれた唇を見て。)
(ネズミもわたしも、笑みを零した。)

「なんであんたが泣くんだよ」

(ネズミが口の端を緩めて、苦笑う。)

「だって……だって、ネズミ……」

(紫苑がネズミに目を向けた。その紫ががかった黒い目から、いくつもの涙の粒が零れ落ちる。)

「あーはいはい、わかったから。こっち寄ってくるなよ?鼻水で汚れる」

(紫苑に向かってしっしと手で追い払うネズミ。紫苑は泣き顔のままずず、と洟(はな)をすすって、)

「杏樹〜〜〜っ」

(振り返り、こちらに抱きついて来た。)
(杏樹はしょうがないなあ、と笑って紫苑を抱きとめ、背中を優しく撫でた。)

「まったく……ネズミも紫苑をあんまり苛めないでね」

「杏樹は紫苑に甘すぎるんだ」

「……杏樹は大好き。ネズミなんて嫌いだ」

「あれま。ネズミさん、こんなこと言われちゃいましたけど?」

「……紫苑、……」

(あ、とそこでネズミは思いついたように言葉を切った。)

「言い忘れてたことがあったな」

(そして杏樹を見た。杏樹はネズミの目で、『言い忘れてたこと』がなんなのか察して、杏樹も『あ、』という顔をする。)

(そのあとでネズミと一緒に口を開いた。)


「「――紫苑!誕生日おめでとう!!」」


(それは月のない夜のこと。満天の星が、彼を祝福するように静謐に、しかし賑やかに輝いていた。)


▼ 一個前、#11の続きです。こちらはかなり短め。
  ちなみに紫苑の目の色は、原作に沿ったものとしました。
  遅くなって本当にごめんね紫苑(ジャンピングスライディング土下座)!!
  でも愛はちゃんと詰まってるから!誕生日おめでとう!
  2011/09/19
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